2025 年 67 巻 3 号 p. 226-232
症例は69歳男性.胃体上部癌に対し腹腔鏡下胃全摘術・Roux-en-Y再建が施行され退院したが,第27病日に吐下血を認め再入院となった.EGD・CSを行ったが出血源の同定は困難であった.再入院後10日目に再度大量の吐下血を認めたためY脚吻合部を経由し十二指腸断端まで観察を行ったところ,同部位に潰瘍を認め出血源と診断した.CTおよび血管造影検査では仮性動脈瘤形成は認めなかった.内視鏡下にポリグリコール酸シートおよびフィブリン糊による潰瘍底の被覆を再入院後23日目および30日目に施行したところ徐々に潰瘍の縮小が観察され,再入院後40日目に退院した.
A 69-year-old man underwent laparoscopic total gastrectomy with Roux-en-Y reconstruction for gastric cancer. He was subsequently readmitted for hematemesis and hemorrhagic stool. Emergency EGD and CS failed to reveal any bleeding foci. Massive gastrointestinal bleeding recurred on hospital day 10, and EGD through the Roux-en-Y anastomosis revealed a hemorrhagic ulcer at the duodenal stump. CT and angiography revealed no evidence of pseudoaneurysm. Continued endoscopic shielding with polyglycolic acid sheets and fibrin glue improved the ulcer, and the patient was discharged on hospital day 40. Bleeding from the duodenal stump should be considered in patients with postoperative gastrointestinal bleeding after gastrectomy with Roux-en-Y reconstruction.
胃切除術に伴うRoux-en-Y再建後の十二指腸断端は稀に縫合不全などの重篤な合併症を併発し致命的となり得る 1).その中でも十二指腸断端からの管腔内出血はきわめて稀である.今回われわれは胃全摘術・Roux-en-Y再建後の十二指腸断端に生じた潰瘍より高度の消化管出血をきたし治療に難渋した1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
症例:69歳,男性.
主訴:吐下血.
既往歴:高血圧症(59歳より),脂質異常症(59歳より),発作性心房細動(65歳より).
生活歴:飲酒歴なし,喫煙歴 40本/日×32年.
アレルギー歴:解熱鎮痛剤,抗菌薬等多数あり.
現病歴:胃体上部癌に対し腹腔鏡下胃全摘術・Roux-en-Y再建が施行され第16病日に退院したが,第27病日に吐下血を認め再入院となった.
身体所見:体温36.2℃,血圧110/68mmHg,脈拍72回/分,SpO2 98%(室内気),腹部圧痛なし.
血液検査所見:Hb 9.8g/dL,CRP 4.73mg/dLと貧血および炎症反応を認めるほか異常なし.
治療経過(Figure 1):入院後に上部消化管内視鏡検査(EGD)を行いY脚吻合部手前までを観察したが出血所見を認めなかった.再入院後4日目に下血を認め,再度EGDおよび単純CTを施行したが出血源の同定は困難であった.長期絶食を想定し中心静脈栄養管理を開始した.再入院後9日目にも下血を認め,EGDおよび下部消化管内視鏡検査(CS)を施行したが出血所見を認めなかった.しかし再入院後10日目に大量吐下血を認めたため,下部消化管用のスコープを用いてY脚吻合部を経由し十二指腸断端まで観察を行ったところ,同部位に潰瘍を認め出血源と診断した(Figure 2).観察時に活動性出血像を認めず出血点や露出血管は不明であったが,潰瘍深部に拍動を認め仮性動脈瘤が疑われたため観察のみで終了し腹部造影CT検査を直ちに行った.腹部造影CT検査では十二指腸断端周囲の液体貯留を認めず縫合不全は否定的であり,また腹腔内出血や十二指腸周囲の仮性動脈瘤形成は認めなかった(Figure 3).また十二指腸断端部の潰瘍も画像上は指摘困難であった.潰瘍深部への内視鏡的止血術が困難であったため再入院後11日目にinterventional radiology(IVR)での止血を試みたが,腹部血管造影では血管外漏出像が確認できず責任血管の同定が困難であった.腹腔動脈造影では胃十二指腸動脈から上膵十二指腸動脈を介した十二指腸への血流が描出されず(Figure 4),上腸間膜動脈造影で下膵十二指腸動脈を介した十二指腸への血流のみが確認された.下膵十二指腸動脈領域の予防的塞栓は十二指腸断端の虚血・壊死をかえって助長すると判断し,IVRでの止血は断念した.内視鏡観察および血管造影時に明確な活動性出血像を認めず止血傾向にあると推測されたこと,および再開腹手術の侵襲が大きいことから追加止血処置を行わず自然止血を待つ方針とした.

治療経過.
再入院後10日目以降は再出血なく経過し,再入院後40日目に軽快退院となった.
矢頭:吐血もしくは下血症状.

緊急上部消化管内視鏡像.
Y脚吻合部を経由し十二指腸内を観察したところ,十二指腸断端部に潰瘍を認めた.

腹部造影CT像.
十二指腸周囲の液体貯留や仮性動脈瘤形成,腹腔内出血は認めなかった.
矢頭:十二指腸断端部.

腹部血管造影像.
十二指腸での血管外漏出像は認めず,責任血管の同定は困難であった.
矢頭:胃十二指腸動脈.
以後は吐下血症状なく経過したが,経過観察目的に再入院後16日目にEGDを施行したところ広い潰瘍底が残存していた.再出血の防止および潰瘍の治癒促進を図るため,インフォームドコンセントを得た上で再入院後23日目に内視鏡下にポリグリコール酸(polyglycolic acid:PGA)シートおよびフィブリン糊による潰瘍底の被覆を行った(Figure 5).以後は1週間毎に観察および必要に応じて被覆を継続する方針とした.再入院後30日目には潰瘍底は縮小傾向であったがPGAシートは脱落していたため再度内視鏡下に同様の被覆を行った.再入院後37日目には潰瘍底はさらに縮小し,PGAシートも残存していたため観察のみで終了した(Figure 6-a~c).再入院後10日目以降は吐下血を認めず経過し,再入院後40日目に軽快退院となった.退院後も再出血なく経過し,1年後の内視鏡観察では潰瘍の治癒が確認された(Figure 6-d).

PGAシートおよびフィブリン糊による潰瘍底被覆時の内視鏡像(再入院後23日目).
十二指腸断端部潰瘍の潰瘍底にPGAシートを貼付し,さらにフィブリン糊を散布した.
a:B液(トロンビン)を浸透させたPGAシートを慎重に搬送.
b:潰瘍底へPGAシートを貼付後.

十二指腸断端部潰瘍の経時的内視鏡像.
PGAシートおよびフィブリン糊による被覆を併用し,潰瘍の改善が得られた.
a:再入院後16日目.
b:再入院後30日目.
c:再入院後37日目(矢頭:残存したPGAシート).
d:出血後1年.
胃癌に対する胃切除術または胃全摘術における術後出血の頻度は0.1~3.8%と報告されている 2)~4).術後出血は消化管出血および腹腔内出血に分けられ,消化管出血の多くは吻合部出血であり内視鏡的治療が有効である 5).一方腹腔内出血は膵液瘻や腹腔内感染に伴う二次的な血管の破綻や仮性動脈瘤破裂を原因とすることが多く,近年ではIVRによる動脈塞栓術の有効性を示す報告が多い 6),7).Roux-en-Y再建後の十二指腸断端からの術後出血の報告はきわめて稀であり,医学中央雑誌にて「胃切除」「十二指腸」「出血」およびPubMedで「gastrectomy」「duodenal stump」「bleeding」を検索用語として検索したところ計8例 8)~14)の報告を認めたが,いずれも十二指腸断端の縫合不全や術後膵液瘻を背景とした仮性動脈瘤の十二指腸穿破であり,本症例のように出血性潰瘍の報告は認めなかった.
本症例では内視鏡検査により十二指腸断端からの出血が判明した際,既報のようにまずは縫合不全による仮性動脈瘤の十二指腸穿破を考え造影CT検査を行ったが,明らかな縫合不全や仮性動脈瘤合併の所見は認められなかった.そのため侵襲の大きい再開腹手術を避けIVRを選択したが,血管造影で出血部位の同定に至らずIVRでの止血も断念することとなった.血管造影の所見として胃十二指腸動脈から上膵十二指腸動脈を介した十二指腸への血流が途絶していた.同部位は手術中にリンパ節郭清のため操作を加える部位であることから,術中の熱損傷や不顕性の膵液瘻など手術操作に起因した何らかの要因で十二指腸への血流途絶をきたし,十二指腸断端に虚血を生じたことが潰瘍形成の原因となったものと推測された.今後の対策として,熱損傷については特に不意の出血に対する盲目的な凝固止血が要因として大きいと思われ出血時は圧迫止血をまず十分に行い出血点に対する最小限の止血操作を行うことが肝要と考えられた.また今回内視鏡処置で用いたPGAシートは膵切除術後の膵液瘻を減少させることが報告されており 15),本症例のように肥満などの要因で膵周囲のリンパ節郭清に難渋した場合は膵液瘻予防のために術中にPGAシートを用いることも選択肢となると考えられた.
本症例では幸い自然止血が得られたが膵液・胆汁の暴露を伴う十二指腸断端部の潰瘍であることから難治性であることを想定し,再出血予防や潰瘍の治癒促進の方法を模索した.スコープの操作性や視野の制限からクリッピングや薬剤局注,凝固など通常の出血性潰瘍に対する処置は困難と予想したため,PGAシートおよびフィブリン糊による被覆療法を試みる方針とした.PGAシートおよびフィブリン糊の併用法はもともと外科領域で臨床使用されていたが 15),16),近年内視鏡治療にこの手法が応用され 17),ESD後の穿孔予防 18)や狭窄予防 19),20),後出血予防 21),22)などの目的で使用されている.また外科手術後の縫合不全・難治性瘻孔に対する有用性も報告されている 23).PGAシート・フィブリン糊の併用以外に考えうる内視鏡的処置としてトロンビン液やピュアスタットⓇなどの薬剤散布やアルゴンプラズマ凝固(argon plasma coagulation:APC)が挙げられる.トロンビン散布は最も頻用される処置のひとつであるが胆汁および膵液の暴露を長時間防ぐ効力は落ちると予想された.ピュアスタットⓇは添付文書上,胆汁および膵液の漏出を伴う部位に対しては慎重投与となっており,またAPCは十二指腸断端部の自動縫合器のステープルへの干渉を危惧しいずれも本症例での使用は控えた.
本症例でPGAシートおよびフィブリン糊の被覆療法を行うにあたっては,まず滝本の報告 24)に則り20×10mm大の短冊状に切離したPGAシートを潰瘍底に貼付しA液(フィブリノゲン),B液(トロンビン)の順に散布する方法を試みたが,潰瘍底が狭い盲端に位置したため粘稠性の高いA液の散布後にB液をPGAシートに浸透させることが困難であった.そこであらかじめB液に浸したPGAシートを慎重に搬送し潰瘍底に貼付した後にA液を少量ずつ散布する方法を用いた(Figure 5).ESD後潰瘍への使用例では2週間後も大多数の症例でPGAシートの残存が確認できると報告されるが 25),本症例はこれらの症例と比較し十分な処置を行うことが困難であったためシートの早期脱落が危惧された.そのため1週間毎に観察を行い脱落がみられれば都度追加処置を行う方針とした.初回の被覆療法(再入院後23日目に施行)は1週間後の観察でシートが残存していなかったため早期脱落であったが,2回目の被覆療法(再入院後30日目に施行)は1週間後にシートの残存が確認でき有効であったと思われた.また早期脱落防止のためクリップを用いたPGAシートの固定も考慮したが,本症例では潰瘍部位の視野の狭さやスコープの操作性の点からクリッピングの微細な調整が難しく逆にシートの逸脱につながると考え断念した.
PGAシートはポリグリコール酸を材料とした生体吸収性組織補強材であり,ESD後の潰瘍においてはPGAシートが組織再生の足場として機能し良好な血管新生や肉芽形成を促進することが示されている 26).加えてPGAシートによる消化液暴露への物理的防御も潰瘍治癒において有効であると考えられ,外科領域ではPGAシートおよびフィブリン糊で動脈断端を被覆することにより膵切除術後膵液瘻による仮性動脈瘤形成を有意に減少させることが報告されている 27).縫合不全をはじめとする十二指腸断端部の術後合併症は胆汁および膵液が暴露することからしばしば難治性であり,かつ内視鏡的経鼻胆管・膵管ドレナージの施行が困難であることが問題となる.本症例ではPGAシートおよびフィブリン糊による被覆により胆汁・膵液の暴露が軽減され潰瘍の治癒促進に寄与した可能性が考えられた.
胃全摘術・Roux-en-Y再建後の十二指腸断端部に生じた出血性潰瘍の1例を経験した.Roux-en-Y再建後の消化管出血では十二指腸断端からの出血も念頭に置く必要がある.またPGAシートおよびフィブリン糊による被覆は潰瘍の治癒促進に寄与した可能性が考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし