2025 年 67 巻 4 号 p. 289-294
4年前に胃穿孔性腹膜炎に対して幽門側胃切除術ならびにRoux-en-Y再建術の既往がある80歳男性が,腹痛と嘔吐を主訴に受診した.腹部CTで輸入脚の拡張,膵周囲の脂肪組織濃度上昇,膵型アミラーゼ値上昇を認めたため,急性膵炎を合併した輸入脚症候群と診断した.EGDでは,Y脚吻合部が狭窄し,腸石が嵌頓していた.腸石をカニューレで輸入脚側へ押し込み,吻合部狭窄に対して内視鏡的バルーン拡張術を施行したところ,大量の腸液が流出した.回収した腸石を分析すると真性腸石であった.狭窄したY脚吻合部に嵌頓した腸石が輸入脚症候群を引き起こしたものの,内視鏡的に治療しえた貴重な症例と思われた.
An 80-year-old man presented with epigastric pain and vomiting 4 years after undergoing distal gastrectomy with Roux-en-Y reconstruction for a gastric ulcer perforation. Enhanced abdominal CT and blood tests led to a diagnosis of afferent loop syndrome and acute pancreatitis. Endoscopic examination revealed afferent loop obstruction caused by an enterolith owing to anastomotic stenosis. We performed endoscopic balloon dilation of the anastomotic stricture and successfully removed the enterolith. Stone component analysis confirmed it was a true enterolith. The patient was discharged on the 13th postoperative day without complications or abdominal symptoms. This case is unique in two respects: afferent loop syndrome caused by a true enterolith and its successful management with endoscopic procedure. This experience may be valuable for treating similar cases of afferent loop syndrome.
胃切除後でBillrothⅡ法やRoux-en-Y再建術後の輸入脚症候群や,腹部症状を伴う腸石は,外科的治療を必要とすることが多い 1),2).今回われわれは,狭窄したY脚吻合部に腸石が嵌頓し,膵炎を合併した輸入脚症候群を引き起こしたものの,内視鏡的に治療しえた貴重な症例を経験したので報告する.
患者:80歳,男性.
主訴:腹痛,嘔吐.
既往歴:76歳;胃潰瘍穿孔手術.
内服薬:ボノプラザンフマル酸塩,酸化マグネシウム,パンテチン,ブロチゾラム,ピコスルファートナトリウム水和物.
現病歴:2018年に胃潰瘍穿孔に伴う汎発性腹膜炎に対し幽門側胃切除およびRoux-en-Y再建術を施行された.術後合併症なく経過し,近医を定期受診されていた.2022年10月に腹痛と嘔吐を認め当院へ救急搬送された.
来院時現症:体温 35.7℃,血圧 169/97mmHg,心拍数 65回/分・整,酸素飽和度 97%(室内気),意識清明,腹部は軽度膨隆しており腸蠕動音は減弱していたが,腹膜刺激兆候は認めなかった.
来院時血液生化学検査所見:白血球数(15,100/μL),血清アミラーゼ値(966IU/L),血清膵型アミラーゼ値(881IU/L)が著明に高値であった.
腹部CT所見(Figure 1):単純CTでY脚の拡張とY脚吻合部の狭窄を疑う所見を認めた.また,造影CT検査では膵周囲の脂肪織濃度上昇を認め,造影不良域は認めなかった.

手術シェーマおよび入院時腹部単純CT所見.
a:2018年に施行された幽門側胃切除およびRoux-en-Y再建術の手術シェーマ.Y脚吻合部を矢頭で示す.
b:入院時腹部単純CT(冠状断).Y脚吻合部(矢頭)を起点に,輸入脚の著明な拡張を認める.
c:入院時腹部単純CT(冠状断).輸入脚全体の著明な拡張を認める.
臨床経過(Figure 2):上記検査所見から,急性膵炎を合併した輸入脚症候群と診断した.Y脚の減圧を目的に,PCF-H290DI(オリンパス社,東京,日本)を用いて内視鏡検査を施行したところ,Y脚吻合部の狭窄と,事前のCTで指摘しえなかった結石の嵌頓を認め(Figure 3-a),スコープの深部挿入は不可能であった.そこで,胆管造影カニューレ(MTW ERCPカテーテル;MTW Endoskopie,Wesel,Germany)で,結石を吻合部より十二指腸側へ押し込むと,嵌頓が解除され大量の腸液が流出された(Figure 3-b).腸液を十分に吸引しY脚腸管の虚脱を確認した後,狭窄したY脚吻合部をバルーンカテーテル(Giga(φ13-15mm径);㈱カネカ,東京,日本)を用いて2ATM,13mmで30秒間の拡張を2回行った(Figure 3-c).結石を内視鏡的に吸引しフード内へ引き込みながら体外へ排石・回収した後,Y脚の腸管粘膜に血流障害を疑う所見がないことを内視鏡的に確認した(Figure 3-d).

内視鏡治療後の臨床経過.
入院時,白血球数,血清CRP値,血清膵型アミラーゼ値の上昇を認めたが,内視鏡処置後,改善した.処置後10日目と42日目に撮影した腹部単純CTでは,急性膵炎後の局所合併症や輸入脚症候群の再燃を認めなかった.

上部消化管内視鏡所見.
a:Y脚吻合部に結石の嵌頓を認める.
b:胆管造影カニューレを用いて結石を輸入脚側へ押し込む.
c:拡張用バルーンを用いてY脚吻合部を拡張.
d:吻合部拡張後,輸入脚側の腸管に,腸管損傷や血流障害を疑う所見がないことを確認.
腹部症状は改善したため,処置後2日目より食事を再開し,処置後13日目に退院された.処置後10日目と42日目に撮影した腹部単純CT所見では,急性膵炎後の局所合併症や輸入脚症候群の再燃を認めなかった(Figure 2).また,回収した腸石に対して赤外線吸収スペクトロフォトメトリーで分析を行い,主成分はデオキシコール酸98%以上の胆汁酸石で,真性腸石であった.
胃切除後の輸入脚症候群は,BillrothⅡ法やRoux-en-Y再建後に癒着,腸重積,狭窄,悪性腫瘍,内ヘルニア等の機械的通過障害で十二指腸側の腸管が拡張し,腹痛や嘔吐をきたす病態である 1),3).死亡率は11~28%と高く,治療の原則は早期手術による閉塞解除とされている 4).また,輸入脚閉塞症のうち約80%が高アミラーゼ血症を伴い 5),輸入脚内の結石による輸入脚症候群のうち約38%で急性膵炎を併発したと報告されている 6).一方,腸石は,腸管内の正常な内容物の沈殿により形成される真性結石と,胃石・胆石や糞石など腸管外で形成された結石が腸管内に落下して形成される仮性結石に分類される 7).真性結石の主成分は胆汁酸やカルシウム塩である 7),8).自験例の腸石は,胆汁酸であるデオキシコール酸を主成分としていた.したがって,輸入脚の吻合部狭窄によって,腸液が停滞した際に胆汁酸を主成分とした真性腸石が形成されたと考える.総胆管結石が十二指腸へ落下したことによる仮性結石の可能性を否定はできないが,未処置乳頭であり,仮に総胆管結石が十二指腸へ落下したのであれば,腹痛などの症状が出た可能性が高い.自験例では,そのようなエピソードは確認されなかった.また,Roux-en-Y再建後のY脚吻合部に腸石が嵌頓していたため吻合部が同定しやすく,原因となった腸石を内視鏡的に除去することで輸入脚症候群の治療が可能であった.
医学中央雑誌で「Roux-en-Y」,「腸石」を,PubMedで「Roux-en-Y reconstruction」,「enterolith」をキーワードに,2013年から2023年の期間における会議録を除いた症例報告を検索した.その結果,Roux-en-Y再建後のY脚に腸石が発生したことが原因で輸入脚症候群をきたした症例は,憩室内への腸石嵌頓症例を除いて,自験例を含め5例あった.Roux-en-Y再建術から輸入脚症候群発症までの期間は最短で14カ月,最長で14年であった.これら5例のうち,膵炎合併を認めた症例は2例あった.Roux-en-Y再建後のY脚吻合部へ腸石が嵌頓した症例は自験例のみであった(Table 1) 1),3),9),10).また,竹内らは胃全摘後のRoux-en-Y再建としてCircular Stapler 21mmを使用しY脚吻合を行った約17年後に吻合部狭窄を契機に輸入脚症候群をきたした症例を報告しており,器械吻合は粘膜治癒が障害されるため,手縫い吻合と比較して吻合部狭窄をきたしやすいことや,Circular Stapler 21mmの吻合径が小さいことが吻合部狭窄の原因のひとつと考察している 11).自験例でも,Y脚はCircular Stapler 21mmを使用して器械吻合されており,同様の機序で輸入脚症候群をきたした可能性がある.

Roux-en-Y再建後のY脚に発生した腸石が原因で輸入脚症候群をきたした症例.
一般的に腸石が原因となる輸入脚症候群は珍しく 6),吻合部の機械的閉塞による輸入脚症候群の治療は外科治療を要することが多い.Blouhosらは,Roux-en-Y再建後のY脚吻合部に嵌頓した腸石の治療法として,吻合部狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術,腸切開術,狭窄再建術,Roux-en-Y再建再手術を提案している 12).自験例では吻合部に腸石が嵌頓していたことから吻合部が同定しやすく,腸切開術等の外科手術が必要となる可能性を念頭に置きつつ,低侵襲な内視鏡的バルーン拡張術を第一選択とした.今回は結石が小さかったため,嵌頓解除後に回収不可能であっても腸閉塞に至る可能性は低かったと考える.一般に,20mm以上の結石は腸閉塞の危険性が高くなるとされており,処置の際は拡張用バルーンや回収ネットなどの処置具を使用可能な内視鏡を選定する必要がある.また,結石や吻合部に到達できない場合は小腸内視鏡も検討すべきと思われる.
われわれは,膵癌による腹膜播種に合併した閉塞性黄疸と輸入脚症候群に対し超音波内視鏡(EUS)ガイド下胆道ドレナージ術を行い,減圧に成功した症例を報告した 13).また,輸入脚症候群に対する瘻孔形成補綴材留置システム(lumen-apposing metal stent)を用いたEUSガイド下空腸空腸吻合術の開発も進んでいる 14).今後は,内視鏡的バルーン拡張術以外に,低侵襲な輸入脚症候群に対する内視鏡治療法の開発が期待される.
Y脚吻合部狭窄に伴い,輸入脚内で腸液が滞留して形成された真性腸石が,吻合部へ嵌頓して引き起こされた輸入脚症候群を内視鏡的に治療しえた症例を経験した.
本論文の要旨は日本消化器病学会東海支部第138回例会にて発表した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし