日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
胃内食物残渣に埋没した筒形乾電池異物に対し小型磁石を用いて内視鏡的に摘出し得た1例
佐藤 馨 本田 純也阿部 出千手 倫夫横沢 聡
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2025 年 67 巻 4 号 p. 295-299

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要旨

症例は23歳女性.解離性障害などの基礎疾患があり精神科病棟に入院していた.入院中に筒形の単3乾電池を誤飲したため,緊急でEGDを施行した.しかし,胃内には多量の食物残渣が認められたため,乾電池を直接視認することが不可能であった.そこで,鉗子口から挿入した回収ネットに小型磁石を把持した状態で内視鏡を再度挿入した.胃内で愛護的に内視鏡を操作することで,磁石に乾電池が接着し,摘出が可能であった.磁石を用いた乾電池の摘出法は,食物残渣に埋没した胃内金属異物に対する内視鏡的摘出術として有用であると考えられた.

Abstract

A 23-year-old woman with a dissociative disorder was admitted to a psychiatric hospital, where she accidentally swallowed an AA battery after eating. An emergency EGD was performed owing to the ingestion, but a large amount of food residue in the stomach obscured the battery. To address this, we first removed the endoscope and used an endoscopic loop net to grasp a small magnet through the forceps channel. The scope was then reinserted, and the magnet was gently maneuvered towards the food residue, allowing the battery to adhere to the magnet for extraction. In cases of foreign object retrieval buried in food debris, the poor visibility often complicates treatment. The use of a magnet in this case proved to be an effective method for removing foreign objects hidden in gastric residue during endoscopic procedures.

Ⅰ 緒  言

乾電池は,毒性のある内容物を含有するため,内視鏡的異物摘出術の適応とされている 1.しかし,胃内に多量な食物残渣が存在する場合には,内視鏡での視野確保に苦慮し,異物摘出に難渋する場合も多い.今回,食物残渣に埋没した乾電池異物に対し,磁石を用いて,内視鏡的に乾電池を摘出し得た症例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:23歳,女性.

主訴:異物誤飲.

既往歴:解離性障害などの精神疾患.

現病歴:精神科病棟に入院中であったが,昼食後に患者自身より「乾電池を飲み込んだ」と申告があり,その直後に撮影した腹部X線画像にて上腹部に単3乾電池が1本確認され当科紹介となった.

腹部X線画像:上腹部に単3乾電池を1本認めた(Figure 1).

Figure 1 

腹部立位単純X線検査.

腹部に単3乾電池(1本)を認めた.

早急に乾電池摘出が必要な病態と考えられ,緊急上部消化管内視鏡検査を施行した.患者本人の理解力は乏しかったため,家族より検査の同意を得た.

内視鏡下の乾電池の摘出:ミダゾラムとハロペリドールによる鎮静下で内視鏡を挿入した.最終食事摂取から1時間の時点であったため,胃内に食残残渣が貯留していることが予想された.内視鏡挿入中に残渣を誤嚥するリスクが懸念されたため,内径15mmのオーバーチューブも挿入した.胃内に内視鏡を進めると,予想通り多量の食物残渣が認められ,誤飲した乾電池を確認できなかった(Figure 2).そこで,内視鏡による残渣の吸引および回収ネットによる残渣の摘除を試みたが,残渣の除去は困難であり,やはり埋没した乾電池を確認できなかった.そこで,乾電池が磁性体である特性を利用して,磁石を用いた乾電池の摘出を試みた.まず,内視鏡を一旦抜去し,鉗子チャンネルに回収ネットを挿入した.次に,内視鏡先端から展開した回収ネット内に,市販の小型磁石である丸型超強力マグネット(株式会社セリア,大垣,日本)を入れて把持した(Figure 3).小型磁石の磁束密度は180ミリテスラであった.オーバーチューブを介して,小型磁石を把持した回収ネットを挿入したまま内視鏡を胃内に挿入した.食物残渣が貯留している胃の内腔で,愛護的に内視鏡を動かしたところ,内視鏡先端の磁石に乾電池が吸着された(Figure 4-a).その状態で内視鏡ごと抜去すると,食道胃接合部で乾電池が自然に食道内腔と同軸になり(Figure 4-b),スムーズに乾電池を摘出できた(Figure 4-c).内視鏡手技に関連した偶発症は認めず,乾電池の摘出後は,精神科病棟での入院管理が継続された.

Figure 2 

緊急上部消化管内視鏡検査.

胃内に多量の食物残渣が存在し単3乾電池を直接視認することが不可能であった.

Figure 3 

回収ネットで小型磁石(直径13mm・厚み2.5mm)を把持した.

Figure 4 

乾電池の内視鏡的摘出.

a:回収ネット内の小型磁石に接着した乾電池.

b:食道と同軸となった乾電池.

c:回収した乾電池.

Ⅲ 考  察

異物誤飲に対して内視鏡的摘出術を行う際,胃内の食物残渣のために異物の確認が困難なことがある.本論文は,本症例では食物残渣に埋没した乾電池異物に対し,磁石を用いて摘出できた症例の報告である.

消化器内視鏡ハンドブック第2版では,緊急性がある異物摘出術の適応として,消化管壁を損傷する可能性があるもの,腸閉塞をきたす可能性があるもの,毒性のある内容物を含有するもの,が挙げられている 1.乾電池は,電池内に含まれる強アルカリ液漏出による直接的な侵食作用,持続的に低電圧直流が流れることによる化学的熱傷,機械的圧迫による循環障害,が組織障害の機序として考えられている.したがって,毒性のある内容物を含有する異物に該当し,緊急異物摘出術の適応と考えられる 2

しかし,緊急で内視鏡的異物摘出術が必要な場合にも,食事摂取直後の症例では,胃内に多量の食物残渣があることで十分な視野が得られず,異物摘出に難渋する.そのような場合には,内視鏡による残渣吸引,把持鉗子や回収ネットによる残渣摘出により,可能な限り胃内容物を減量することが試みられる.また,体位変換を行うことで,残渣が移動されて異物摘出に成功することもある.しかし,それらの工夫を行っても異物を直視することが困難な場合がある.

医学中央雑誌において,1994年から2024年の期間で「電池」「摘出」をキーワードに文献を検索したところ110編が抽出された.そのうち,胃内の電池を内視鏡下に摘出した論文が24編あり,摘出に使用したデバイスが詳しく記述されていた症例は15例であった(Table 1 3)~16.回収ネットが6例,スネアが5例,バスケット鉗子が3例,スネアとマグネットチューブの併用が1例であった.このうち,山城らは,回収ネットによる摘出法は,乾電池と消化管壁が同軸となり消化管壁損傷のリスクが軽減されることや強い把持力があることを長所として述べている 14.しかし,多量の残渣がある場合,回収ネット内に乾電池を収納することが困難なことがある.一方,今井らは,スネア単独の把持では食道胃接合部の通過時に乾電池と消化管壁が同軸とならないため,それを補填する役割でマグネットチューブを併用して乾電池の向きを調整し摘出したことを報告している 9.用いられたマグネットチューブは,先端に磁石が埋め込まれた単腔型のチューブであり,通常は内視鏡を使用せず透視下で経口的に挿入し,チューブ操作と体位変換によって金属異物に接着させて回収するデバイスである.主に小児科領域で使用される機会が多いが,異物を内視鏡で確認せず,透視像を確認するため,摘出までに時間を要すことが多いことと,残渣が多い場合には回収成功率が低いとされている 17),18

Table 1 

電池誤飲の内視鏡下摘出に成功した本邦報告例.

今井らが使用したマグネットチューブは,常備している施設は限られており,当院にもなかった.そこで,マグネットチューブに類似した摘出法として,市販の小型磁石を回収ネットで把持し乾電池に接着させることで摘出する方法を即時に考案した.このデバイスを用いた摘出法の利点は,胃内残渣に埋没した金属異物を直接視認できない状況においても,愛護的に内視鏡操作を行うことで異物摘出が可能となる点である.また,磁石と金属異物が点で接着しているため,摘出時に生理的狭窄部を通過する際にも,異物の向きが消化管長軸と一致するように自然に調整され,消化管壁損傷リスクを軽減できる.マグネットチューブ使用時に必須である透視や体位変換も原則不要となるため,限られた設備や人員の中で手技を行うことも可能である.しかし,この市販の磁石は生体内での使用を前提としたものではない.したがって,内視鏡的に使用可能なマグネットデバイスの開発が必要である.

Ⅳ 結  語

胃内で多量の残渣に埋没した金属異物に対する内視鏡的摘出術として,磁石を用いた摘出法が有用であった.

第168回日本消化器内視鏡学会東北支部例会で発表し優秀演題に選ばれた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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