日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
シェーグレン症候群に合併したトランスサイレチン胃アミロイドーシスの1例
山田 充子 安部 智之上杉 淳横山 涼太齊藤 聖也大岩 修太郎小野 道洋前田 征洋藤田 美悧
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2025 年 67 巻 5 号 p. 1069-1075

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要旨

症例は83歳女性.2011年からシェーグレン症候群と診断され近医に通院中であった.また心房細動のため抗凝固療法中であった.2023年1月貧血の精査目的で当院消化器内科に紹介となった.上部消化管内視鏡検査で胃体下部大彎やや前壁寄りに10mm程度の0-Ⅱc様の褪色調陥凹性病変を認め,生検をしたが,その翌日に黒色便が続いたため内視鏡検査を再検したところ,生検部分から湧出性出血を認め,内視鏡的止血術を施行した.病理組織でアミロイドの沈着を認め,免疫組織学検査でトランスサイレチンアミロイドーシスと診断された.生検後出血については,アミロイド沈着による組織の脆弱性や抗凝固療法の影響と考えられた.

Abstract

In 2011, an 83-year-old woman was diagnosed with Sjögren syndrome and underwent anticoagulation therapy for atrial fibrillation. Because of anemia, she was referred to our Department of Gastroenterology in January 2023 for further examination. Upper gastrointestinal endoscopy revealed a 10-mm 0-Ⅱc-like faded lesion in the greater curvature of the lower gastric body; therefore, biopsy was performed. The following day, the patient revisited the hospital because of melena. Endoscopic hemostasis was performed to stop bleeding. Immunohistochemistry revealed transthyretin amyloidosis, suggesting that tissue fragility due to amyloid deposition and anticoagulant therapy caused bleeding.

Ⅰ 緒  言

アミロイドーシスは,折りたたみ異常を起こした前駆蛋白質が,特有のβシート構造に富むアミロイド線維を形成し,心臓・肝臓・腎臓・神経・消化管などの細胞外に沈着することにより機能障害を引き起こす疾患の総称である.アミロイドーシスに沈着するアミロイド蛋白は現在30種類以上が同定され,沈着するアミロイド蛋白の種類によって病型分類されている 1.おもな病型は,免疫グロブリン軽鎖(immunoglobulin light chain:IgLC)が沈着するamyloid light chain(AL)アミロイドーシス,血清アミロイドA蛋白(serum amyloid A protein:SAA)が沈着するamyloid A(AA)アミロイドーシス,β2-ミクログロブリン(β2 microglobrin:β2M)が沈着する透析アミロイドーシス,トランスサイレチン(transthyretin:TTR)が沈着するamyloid transthyretin(ATTR)アミロイドーシスなどである.消化管アミロイドーシスにおいては,これまでALアミロイドーシスが最も多く報告されているが,ATTRアミロイドーシスの報告は非常にまれである 2)~4.今回われわれは,シェーグレン症候群に合併したトランスサイレチン胃アミロイドーシスの1例を経験したため報告する.

Ⅱ 症  例

患者:83歳,女性.

主訴:特記すべき症状なし(貧血精査目的).

既往歴:2011年珪肺で左肺上葉部分切除術後,2016年慢性C型肝炎で抗ウイルス療法後,2022年胸・腰部圧迫骨折,虫垂炎で虫垂切除術後.

現病歴:2011年から耳鼻科および眼科でシェーグレン症候群と診断され近医通院中,2012年よりシェーグレン症候群に伴う汎血球減少症を発症し近医の血液内科でステロイドパルス療法などの治療を施行された.その後,転居に伴い当院血液内科へ紹介となり,定期通院し治療を継続されていた.また,珪肺・間質性肺炎で当院呼吸器内科を,橋本病・高血圧・心房細動で当院循環器内科を通院中,心房細動に対し循環器科より直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOAC)として経口FXa阻害薬(エドキサバン15mg/日)を処方されていた.

2023年1月貧血の進行があったため,精査目的に当院消化器内科に紹介となった.

現症:身長151cm,体重39.1kg,体温36.8℃,血圧128/92mmHg,脈拍92回/分,不整.眼瞼結膜に貧血を認める.表在リンパ節腫脹なし,腹部は平坦・軟で圧痛なし.

血液検査所見:末梢血で汎血球減少(WBC 1,260/μL,Hb 9.6g/dL,Plt 10.1×104/μL)を認めた.生化学検査では特記すべき所見はなく,腫瘍マーカーも陰性(CEA<1.7ng/mL,CA19-9 19.5 U/mL)であった.凝固検査においては,PT-INR 1.21と軽度の延長を認めた.免疫血清学的検査ではIgG 2,527mg/dLと高値であったが,免疫グロブリン遊離軽鎖κ/λ比は正常であった.血清蛋白の免疫電気泳動検査ではM蛋白陰性で,Bence-Jones蛋白も認めなかった.

上部消化管内視鏡検査:白色光通常内視鏡観察では,胃体下部大彎やや前壁寄りに比較的境界明瞭で光沢のある10mm程度の0-Ⅱc様の褪色調陥凹性病変を認めた.陥凹粘膜面は軽度粗造を呈しており(Figure 1-a),インジゴカルミン色素撒布像では,病変部の微細顆粒状隆起を認め,病変と周囲粘膜との境界がより明瞭となったが,蚕食像は認めなかった(Figure 1-b).Narrow band imaging(NBI)(拡大観察は未実施)では,腺開口部・窩間部の開大した所見を認め,拡張した血管像を認めたが明らかな口径不同などの不整像は認めなかった(Figure 1-c).なお,背景粘膜には高度の萎縮を認め(木村・竹本分類のO-3),H. pyloriは除菌後であった.食道や十二指腸には異常所見は認めなかった.

Figure 1 

上部消化管内視鏡検査所見.

a:白色光通常内視鏡観察像.胃体下部大彎やや前壁寄りに比較的境界明瞭で光沢のある10mm程度の0-Ⅱc様の褪色調陥凹性病変を認めた.陥凹粘膜面は軽度粗造を呈していた.

b:インジゴカルミン色素撒布像.病変部の微細顆粒状隆起を認め,病変と周囲粘膜との境界がより明瞭となった.

c:NBI像.腺開口部・窩間部の開大した所見を認め,拡張した血管像を認めたが明らかな口径不同などの不整像は認めなかった.

臨床経過:上部消化管内視鏡検査(EGD)の所見より,褪色調の陥凹性病変で窩間部の開大などを認めたことから,まず,未分化型の早期胃癌,MALTリンパ腫,アミロイドーシスなどの疾患が鑑別としてあげられた.未分化型の早期胃癌はwavy micro-vesselsやcorkscrew patternなどの不整血管 5,またMALTリンパ腫は木の枝状に分岐したtree-like appearanceと呼ばれる異常血管 6がNBI拡大内視鏡観察における特徴的な血管所見として,これまでに報告されている.本症例では拡大内視鏡観察ではなかったため詳細な観察はできなかったが,観察しえた限りにおいては血管の不整像は認めず,アミロイドーシスなどの良性疾患の可能性を考えた.アミロイドーシスは胃の粘膜や粘膜下層に沈着物をきたす疾患であり,本症例と同様に褪色調の陥凹性病変の症例が報告されている 7.これらの疾患の鑑別のため,陥凹部位より生検を施行した.なお,エドキサバンは休薬せずに継続とし,また,ボノプラザン10mg/日を定期的に内服しており,生検施行時にも内服していた.出血の合併症に関しては説明を行い同意書を取得していた.

EGDで生検をした翌日に黒色便を認めたため,EGDを再度施行したところ,前回の生検部位から湧出性の出血を認めた(Figure 2).高周波凝固で止血を施行し,経過観察目的で入院となった.翌日のEGDで止血を確認できたため,食事を開始したが再出血は認めなかった.

Figure 2 

上部消化管内視鏡検査所見.

胃の陥凹性病変の生検部位から湧出性の出血を認めた.

陥凹部からの病理組織学的所見では,粘膜固有層から粘膜下層にかけて好酸性の無構造物質が沈着し(Figure 3-a),Congo red染色で同物質は橙赤色に染色され(Figure 3-b),アミロイドーシスと診断した.また,同物質は過マンガン酸カリウム処理に抵抗性で,AAは陰性(Figure 4-a)であった.抗κ鎖抗体および抗λ鎖抗体での染色ではどちらもアミロイドの辺縁部に濃く染色され,全体的に過染状態となっていた.一方,TTRの染色ではアミロイド全体が均一に染色されており,TTR陽性(Figure 4-b)と判断した.以上より,ATTRアミロイドーシスと診断した.また,本患者の遺伝子解析では,TTR遺伝子変異はなく,野生型TTR由来のアミロイドーシスであった.

Figure 3 

胃の陥凹性病変からの生検病理組織学的所見.

a:H.E.染色.粘膜固有層から粘膜下層にかけて好酸性の無構造物質が沈着していた.

b:Congo red染色.粘膜固有層から粘膜下層にかけて橙赤色に染色されたアミロイドの沈着を認めた.

Figure 4 

免疫組織染色所見.

a:AA陰性.

b:TTR陽性.

心アミロイドーシスの合併も考慮し当院循環器内科に相談したが,高齢であることと侵襲が大きいことから,心筋生検は施行されなかった.心臓超音波検査では左室駆出率69%,左心室肥大,心囊液貯留を認めたが,壁運動は比較的保たれており,外来にて定期的な経過観察を行うことになった.入院中に食事摂取量が少なく廃用症候群も進行したため,療養型の病院へリハビリテーション目的で転院となった.

Ⅲ 考  察

アミロイドーシスは,全身諸臓器に沈着する全身性アミロイドーシスと局所的に沈着する限局性アミロイドーシスに分類される 1.消化管アミロイドーシスとして報告されているおもなアミロイド蛋白の種類,消化管壁における沈着部位,内視鏡所見,治療法などに関して表に示す(Table 1 8),9

Table 1 

アミロイドーシスの分類.

消化管アミロイドーシスはこれまでALアミロイドーシスの報告が最も多い 2),3.ALアミロイドーシスは全身性のみならず消化管に限局したアミロイドーシスの報告も散見されるが,AAアミロイドーシスやATTRアミロイドーシスは,消化管に限局している報告は少ない 4.ATTRアミロイドーシスが少ないことに関しては,免疫染色の問題が指摘されている 10.これまでにALアミロイドーシスと報告されているもののなかには,適切に染色および判定されていれば,ATTRアミロイドーシスと診断されていたものが含まれている可能性がある.その原因としては,市販の抗L鎖抗体の場合,周囲の間質組織や血管内の血清成分の免疫グロブリンのトラップや染み込みを検出し,アミロイドの周囲に強く染まりすぎて偽陽性と判定されてしまうためである 10),11.本症例においても,抗κ鎖抗体および抗λ鎖抗体での染色ではどちらもアミロイドの辺縁部に濃く染色されていたが,どちらも全体的に過染状態となっていた.一方,TTRの染色ではアミロイドの辺縁だけではなく,アミロイド全体が均一に染色されており,TTR陽性と診断可能であった.アミロイドの種類を同定するには,各種免疫染色が必要であるが,自施設での診断や治療が困難な場合もあり,その際には,専門施設に依頼するのが望ましい.

また,本症例は自己免疫性疾患であるシェーグレン症候群および橋本病を合併していた.これまで自己免疫性疾患などの慢性炎症に合併するアミロイドーシスとしてはAAアミロイドーシスの報告が多く,自己免疫性疾患のなかでも関節リウマチの報告が最も多い 12.AAアミロイドーシスは,慢性炎症に関与するさまざまなサイトカインが肝細胞を刺激してSAAの産生を亢進させ,その結果,SAAの代謝産物のAAが全身諸臓器に沈着する機序が考えられている.本症例においても自己免疫性疾患を合併していたため,AAアミロイドーシスの合併も疑ったが陰性であった.医学中央雑誌およびPubMedで,「橋本病」「ATTRアミロイドーシス」を検索したところ,橋本病を合併したATTRアミロイドーシスの報告はなく,また「シェーグレン症候群」「ATTRアミロイドーシス」を検索したところ,シェーグレン症候群を合併したATTRアミロイドーシスの報告は1例のみで 13,本例が2例目の報告である.その1例は,シェーグレン症候群および関節リウマチに合併した尿管のATTRアミロイドーシスの報告であったが,尿管に限局しており,消化管アミロイドーシスの合併は見られなかった.関節リウマチにおいてはAAと同様にTTRに関しても発現が増加していると報告されており 14,何らかの関連が示唆されるが,シェーグレン症候群に関してはATTRアミロイドーシスとの合併症例が少なく症例の積み重ねによる検討が必要である.

また,本症例は1カ所のみの生検ではあったが,胃の生検後に出血を合併し止血術を要した.アミロイドーシスの消化管におけるアミロイド沈着部位は,主として粘膜筋板から粘膜下層の小血管壁に沈着することが多く 3),4アミロイド蛋白が沈着した粘膜は,末梢の循環障害が加わることにより血管壁や組織が脆弱となりやすいため易出血性である 15.また,消化管アミロイドーシスに伴う消化管出血のリスクに関しては4-36%と報告されている 16.医学中央雑誌で「消化管アミロイドーシス」「出血」「抗凝固療法」を検索したところ,2例のみで,いずれもALアミロイドーシスであり,ワルファリン療法中に胃粘膜下血腫から出血をきたした多発性骨髄腫の症例であった 17),18.柳瀬らの報告例は,本症例と同様に心房細動を合併し抗凝固療法を行っていた 18

EGDにおけるDOAC服用時の取り扱いに関しては,抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインDOACを含めた抗凝固薬に関する追補2017 19に記載されており,「DOAC服用時の粘膜生検や出血低危険度の消化器内視鏡は,DOACの休薬なく施行しても良い.ただし,服薬時間から推定した血中濃度のピーク期を避けて処置を施行することが望ましい.」と記載されている.今回のEGDのDOACに関して確認したところ,当日の起床時より6時30分までの間にエドキサバンを内服するように指示を出しており,生検した時刻が9時30分頃であったことから,エドキサバンを内服してから3時間程度しか時間があいていなかったと推測される.エドキサバンの血中濃度ピーク期は1-3時間であるため,ピーク期に生検を行っていたことになり,配慮に欠けていたことは否めない.本症例では,実際に生検後出血をきたした要因の1つとなっている可能性があり猛省すべきである.

本症例では,胃の組織のみでしかアミロイドの沈着が証明されてはいないが,心房細動,左心室肥大,心囊液貯留を合併していたことから,心筋生検などの精査は未施行であるものの,心アミロイドーシスの合併が疑われた.心房細動に対してDOACを服用している場合,生検を施行する際には,血中濃度のピーク期を避けて処置を施行するとともに,出血の危険性に関しては十分な説明を行い,同意を得ることが重要である.

Ⅳ 結  語

今回,シェーグレン症候群に合併したトランスサイレチン胃アミロイドーシスの1例を経験した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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