2025 年 67 巻 5 号 p. 1083-1089
特に既往歴のない20代男性で右下腹部痛,発熱,下痢で発症したクリプトスポリジウム(Cryptosporidium:CP)症の1例を経験した.通常の便検査では原因不明であったが,腸生検組織検査にてCP原虫の存在が疑われ,生検組織のPCR検査によりCryptosporidium parvum(ウシ型)によるCP症と診断した.本症例のように単なるウイルス性腸炎にしては下痢などの腹部症状が高度で長期に及ぶ場合は,生活歴などの問診を詳細に行い,本症例をはじめとする寄生虫疾患を念頭に,便検査(抗酸菌染色やショ糖遠心浮遊法など)の追加を考慮する.また,病理医との連携の上で,生検を含む大腸内視鏡検査を行うことが重要である.
We encountered a case of cryptosporidiosis in a man in his 20s with no medical history who developed right lower abdominal pain, fever, and diarrhea. Although the cause was unknown in the stool examination, Cryptosporidium protozoa were suspected in the ileum and colon biopsy tissue examination. The patient was diagnosed with cryptosporidiosis caused by Cryptosporidium parvum by polymerase chain reaction examination of the biopsy tissue. In cases in which abdominal symptoms, such as diarrhea, are severe and long-lasting for mere viral enteritis, it is important to conduct a detailed interview about the patientʼs life history, remember parasitic diseases, including this case, perform additional stool tests (acid-fast bacteria staining and sucrose centrifugal flotation method), and conduct thorough examinations, such as endoscopy, together with a pathologist.
1907年に実験用マウスから初めてCP原虫が発見され 1),1976年に初めてヒトの症例が報告された 2).CPは胞子虫網に属する原虫であり,これまで13種のCPのヒトへの感染が報告されているが,感染例の大部分を占めるのは主にヒトから検出されるCrystosporidium hominisと人獣共通感染が認められるCrystosporidium parvumの2種である.ヒトや牛の下痢症の原因としてまた,水道水汚染による集団感染で問題となっているのがCrystosporidium parvumである.CP症は宿主がCPのオーシストを経口摂取することで生じる.オーシストとは感染動物の糞便と共に排出される被膜を有するCPの接合子であり感染能を持つ.これが経口摂取され小腸に達すると被膜が破れ,内部の虫体が小腸上皮細胞に侵入し成長,増殖する 3).ヒトの場合オーシストの経口摂取後,2週間以内に下痢(通常血便を伴わない)で発症し,発熱,腹痛,嘔吐,関節痛を伴うこともある.CPは1980年代にAIDSに合併する難治性下痢症の病原体として認識された.さらにCP症は免疫機能が正常であっても急性下痢を発症する.CP感染の世界的な有病率は7.6%であり 4),衛生環境が不良な地域ではさらに高率である.また大規模な水道水汚染による集団発生例は世界でも,日本でも報告されている 5),6).健常者では無治療でも1-3週間で治癒するが,免疫不全者,特にAIDS患者では死に至ることもある.わが国では届出感染症第5類の対象であるCP症の報告は極めてまれであるが,その診断には特殊な便検査を要することが診断を困難にしている可能性がある.
便検査の次に重要なのは大腸内視鏡である.便検査をしていない場合,あるいは便検査でCP原虫を検出できない場合でも,大腸内視鏡による腸生検にてCP症は診断可能である.
なお健常者のCS症はこれまで画像診断など詳細な報告はわずかであり,貴重な症例として報告する.
20代男性(学生).
主訴:右下腹部痛,発熱,下痢.
既往歴:特になし.
現病歴:X年に,沖縄県の離島で2週間,終日農業研修のために畑仕事や牛の世話をしていた.研修終了後翌日に沖縄本島に帰宅後,21時頃から右下腹部痛が出現した.持続的な強弱のある締め付けられるような痛みであった.翌日から38度の発熱と腹痛の持続,2日後には6-7行/1日の水様性下痢が出現した.3日後に発熱および腹痛,下痢の持続により当院を受診した.発症3日前に鶏肉を自分で焼いて食していたとのことにて,カンピロバクターを疑うも便グラム染色法では同定できず,便中の白血球も認めなかった.便検査結果はウイルス性腸炎で矛盾せず,レボフロキサシン錠500mg/日が開始されたが,3日間服用後も食欲低下と体重減少(-4kg)を認め,4日目に精査入院となった.
来院時現症:体温37.8℃,血圧116/75mmHg,脈拍81回/分,整,呼吸数18回/分,SpO2;98%(室内気).
眼瞼結膜に貧血なし.眼球結膜に黄染なし.咽頭発赤なし,口腔内アフタなし.頸部リンパ節腫大なし.心音は整.肺音は清.腹部は平坦,軟.右下腹部に手掌大の範囲で軽度圧痛あり.反跳痛なし.腸蠕動音は正常であった.
血液検査および尿所見:Table 1に示した.異常所見はCRP 1.99mg/dl,クレアチニン1.10mg/dl,尿比重1.020,尿ケトン2+であった.なおHIV抗原および抗体は陰性であった.

入院時検査所見.
腹部造影CT(発症4日目):小腸全体の壁肥厚と造影効果を認めた.空腸,回腸の腸間膜リンパ節の多発腫大を認めた(Figure 1).

腹部造影CT.十二指腸を含めた小腸全体の壁肥厚および造影効果を認めた.
空腸,回腸の腸間膜リンパ節の多発腫大(矢印)を認めた.
大腸内視鏡(発症7日目)では大腸全体に軽度の発赤,血管透見不良あり(Figure 2).横行結腸から直腸にかけて斑状の点状の褐色調粘膜変化(Figure 3)が散在していた.直腸は潰瘍性大腸炎との鑑別を要する細顆粒状粘膜の所見を呈した(Figure 4).回腸末端はわずかに点状発赤を認めた程度であったが,NBI拡大内視鏡で観察すると,絨毛1本1本が太く短く変化していた(Figure 5).

盲腸.血管透見不良,軽度発赤あり.

S状結腸.斑状,点状の褐色調粘膜変化を認めた.

直腸は細顆粒状粘膜を認めた.

回腸末端.NBI拡大画像:絨毛1本1本が太く短く変化していた.
回腸および大腸の生検では,各部位での上皮の内腔面に径3-4μmの好塩基性の球状体(CP原虫)が付着し,盲腸で最も多く認められた(Figure 6,7).また回腸と大腸全体に明らかな陰窩炎が認められた(Figure 8).

盲腸生検HE染色.盲腸上皮の内腔面に径3-4μmの球状体を多数認めた(矢印).

Figure 6の拡大像.多数の球状体(矢印).

直腸生検.陰窩膿瘍や陰窩炎を認め,間質には好中球などの炎症細胞浸潤が目立つが,陰窩のねじれなどの配列異常所見は乏しく,basalplasmacytosisは明らかではない.
回腸の生検では,絨毛内の出血や浮腫が認められた.横行結腸から直腸にかけて,斑状および点状に見られた褐色調の粘膜領域における生検では,粘膜固有層の出血を認めた(Figure 9).直腸生検ではbasal plasmacytosisを認めなかったため潰瘍性大腸炎は否定的とされた(Figure 8).上部消化管内視鏡では食道,胃および十二指腸には特記すべき異常を認めなかった.十二指腸下行脚の生検では軽度の十二指腸炎が指摘されたが球状体は認めなかった.初回の大腸内視鏡検査により,急性期の潰瘍性大腸炎と判断し,内服治療(プレドニゾロン30mg/日,メサラジン4,800mg/日)を6日間施行した.その後,病理組織学的診断結果を確認後には直ちに中止され,経過観察の方針となった.病態は,発症より2週間で軽快し,退院となった.

横行結腸生検.斑状,点状の褐色調変化部位の生検では粘膜固有層の出血が認められた.
病理診断直後,すでに下痢が軽快した時点の便(発症から13日目)を使用してショ糖遠心浮遊法と抗酸菌染色を施行したが,オーシストは検出できなかった.
後日,国立感染症研究所に送付した腸生検組織のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査にてCryptosporidium parvum(ウシ型)によるCP症と確定診断された.
世界においてCP症が増加しているにもかかわらず,わが国のCP症は年に10例前後の報告しかない.そのため日常診療で下痢の鑑別にCP症を挙げること自体が難しいと考えられる.また正しく診断されずに放置されても,免疫に問題なければ自然に治癒するため,わが国のCP症は少なからず見逃されている可能性がある.健常人のCP症は激しい下痢を1~3週程度持続するとの報告がある 7)~9).CP症を見逃さないためにはまず第一に下痢などの症状が高度かつ長期に及ぶ場合はCP症をはじめとする寄生虫疾患を念頭に詳しい問診(職業,食生活,海外渡航歴,野外活動での汚水との接触,家畜その他の動物との接触,動物の健康状態など)をすべきである.本症例の患者は農業研修中に,下痢をしていた仔牛2頭の糞尿の掃除をしていたことがわかった.CP感染した仔牛のオーシストを含んだ下痢便のしぶきなどが経口的に体内に入った可能性が高い.
下痢患者に対しては当院では便グラム染色を行うことが多い.本症例のように便中白血球が見られない場合はウイルス性腸炎を考えるが,症状が高度で長期化する場合はCP症を含む寄生虫疾患を考慮すべきである.多くの寄生虫や原虫は便の直接鏡検や便グラム染色によって診断可能であるが,これらではCP原虫を検出できない.CP症を見逃さないために第二に重要なことは,便(できれば発症早期の下痢便)の抗酸菌染色やショ糖遠心浮遊法を施行することである.なお,本症例にて病理診断直後,下痢軽快後の便で抗酸菌染色,ショ糖遠心浮遊法を施行したが,いずれもCP原虫を検出できなかったのは時期的にオーシストが減少していたためと推測される.
大腸内視鏡では盲腸生検で多数の球状体を認め診断につながった.CP原虫を特殊な便検査で検出できなかった場合でも,腸生検でCP症を診断可能である.CP症を見逃さないために第三に重要なことは,大腸内視鏡(腸生検を含む)をすることである.病状経過によりオーシストの減少や局在の分布も変化すると予想されるので,CP症を疑う場合は回腸と大腸各部位からの生検が望ましい.そして予めCP症の可能性を病理医に知らせることが重要である.
その他,大腸内視鏡所見としては回腸絨毛の太くて短い変化(Narrow Band Imaging(NBI)拡大内視鏡)があった.Cryptosporidium parvumに感染したマウスや子豚のモデルでは回腸において病理組織学的な絨毛の短縮が報告されており 10),11),拡大内視鏡観察による回腸の絨毛の変化が診断の参考になるかもしれない.Ogataらは内視鏡所見による回腸末端のリンパ濾胞の過形成と巣状の充血を含む非特異的回腸炎を呈する領域において,生検にて回腸粘膜表面にCPに特徴的な小さな球状体と活動性回腸炎を認めたと報告している 12).
本症例では大腸に発赤,血管透見不良,斑状,点状の褐色調粘膜変化および細顆粒状粘膜などが観察され,病理組織学的な所見でも回腸だけでなく大腸全体に明らかな陰窩炎が生じていた.病態としては不明だが,CP症は小腸だけでなく,大腸粘膜にも強い炎症を来しうると考えられた.
Cryptosporidium parvumは微絨毛寄生性であり,微絨毛長の比較的長い小腸に寄生部位が限定されるとされ,CPの多数寄生によって微絨毛は多大な物理的ダメージを受けるといわれている.本症例の腹部造影CTにおける小腸全体の壁肥厚と造影効果は小腸のダメージを示唆すると考えられた.
また,CP原虫のPCR検査は一般に病理標本よりも新鮮便の方が検出感度が高いとされている.
2001年沖縄県の報告では沖縄本島,離島で,家畜のCP感染状況調査がなされて牛28件,豚1件からCPのオーシストが検出され,Cryptosporidium parvumが28件,Cryptosporidium muris(宿主は一般にネズミ)が1件であった.CPの検出率は仔牛が3.1%,成牛が0.3%,子豚が0.2%,母豚が0%であった.成牛より仔牛の方が10倍以上も検出率が高く 13),1カ月齢未満の仔牛にCP感染率が高いことがわかっている.CP症の獣からヒトへの伝播あるいは水系感染症を防ぐため,畜産業周辺の仔牛の下痢便の取り扱いには全国的に充分注意する必要があると思われる.
CP症診断のためには,通常のウイルス性腸炎にしては症状が高度かつ長期に及ぶ場合には詳細な生活歴などの問診が重要である.また通常の検査で原因が特定できない場合はCP症の可能性を考慮し,発症初期の便で抗酸菌染色,ショ糖遠心浮遊法を追加して行う必要がある.また大腸内視鏡によって得られた腸生検組織にてCP原虫を好塩基性の球状体として検出可能である.さらにPCR検査は便や腸生検組織から検出可能である.
謝 辞
本論文におけるCS症の遺伝子検査にご協力いただきました国立感染症研究所,寄生動物部の泉山信司先生に心から感謝いたします.ありがとうございました.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし