日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
内視鏡的に経過観察しえたSessile serrated lesion由来リンパ管侵襲陽性T1b癌の1例
鍋山 健太郎 福嶋 康道馬場 真二長谷川 申田口 順河口 康典
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キーワード: SSL, リンパ管侵襲, T1b癌
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2025 年 67 巻 5 号 p. 1090-1096

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要旨

症例は86歳男性.大腸癌手術歴があるため全大腸内視鏡検査を実施したところ,上行結腸に10mm大の表面隆起性病変を認めた.病変には開Ⅱ型pitに相当する所見があり,病理組織生検ではSessile serrated lesion(SSL)と診断した.多発する腺腫性ポリープを内視鏡切除し,SSLは経過観察した.2年1カ月後,肉眼的な形態変化はなかった.4年3カ月後,病変の中心に浅い陥凹を認め,生検で高分化管状腺癌が疑われて内視鏡切除した.病理結果は,粘膜下層(2,000μm)に浸潤したリンパ管侵襲陽性の高分化管状腺癌であった.遺伝子検査でBRAF変異を認めた.SSLの発育・進展を推測する上で興味深い症例であり報告する.

Abstract

An 86-year-old man with a history of colorectal cancer surgery underwent a CS that identified a 10-mm superficial elevated lesion in the ascending colon. The lesion showed findings consistent with an open type Ⅱ pit pattern, and histopathological biopsy confirmed the diagnosis of a sessile serrated lesion (SSL). At the initial examination, multiple adenomatous polyps were detected and resected endoscopically, but the SSL was kept under surveillance. During the first follow-up at two years and one month, no significant morphological changes were observed in the SSL. However, at four years and three months, a shallow central depression was noted, raising suspicion for progression. Biopsy at this time revealed a highly differentiated adenocarcinoma, and endoscopic resection was performed. Histopathological evaluation showed well-differentiated adenocarcinoma with invasion into the submucosal layer (2,000 μm) and positive lymphatic invasion. Subsequent genetic analysis identified a BRAF mutation.

Here, we report this interesting case to speculate the growth and progression of SSL.

Ⅰ 緒  言

Sessile serrated lesion(SSL)は大腸癌の前駆病変として認識されており,その癌化率は1.3~3.0%と報告されている 1),2.しかし,肉眼的な形態変化の報告は少ない.今回,約4年3カ月間,内視鏡的に経過観察しえたSSL由来のリンパ管侵襲陽性T1b癌を経験したので報告する.尚,大腸鋸歯状病変の分類(WHO 2019,第5版) 3において,sessile serrated adenoma or polyp(SSA/P)がSSLに名称変更となった.名称変更だけでなく病理診断基準までが改訂され,本邦の診断基準 4やWHO 2010(第4版) 5と相違点がある.今回,自験例は本邦の診断基準 4に基づき診断した.よって,これまでのSSA/Pとする既報や自験例をSSLと同一病変として取り扱うことに議論があるが,用語の混乱をさけるためすべてSSLに統一した.

Ⅱ 症  例

患者:86歳,男性.

主訴:なし.

既往歴:74歳,前立腺肥大症.79歳,鼠経ヘルニアの手術.79歳,同時性多発大腸癌の手術(S状結腸にT4進行癌,T1及びTis早期癌).

家族歴:長男,糖尿病.

現病歴:多発する大腸癌の手術歴があるため2016年7月に全大腸内視鏡検査(Total colonoscopy:TCS)を実施した.上行結腸に約10mm大の境界がやや不明瞭な同色調の表面隆起性病変を認めた(Figure 1-a).病変は空気変形を認め,柔らかい腫瘍を疑った.Narrow band imaging(NBI)拡大観察では病変表層の血管構築が不明瞭で,病変の口側にかけてdilated cryptsを認めた(Figure 1-b).インジゴカルミン散布による色素観察では過形成粘膜を反映したⅡ型pitに加え,辺縁隆起部にpitが開大した開Ⅱ型pitに相当する所見があった.病理組織生検ではsessile serrated lesion(SSL)の診断であった(Figure 1-c).他に10個以上の腺腫性ポリープを認めたため,腺腫性ポリープの切除を優先し,SSLは厳重に経過観察とした.2年1カ月後のTCSでは,肉眼的な形態変化は認めなかった(Figure 2-a).病理組織生検ではmicrovesicular hyperplastic polyp(MVHP)とSSLが鑑別と考えられたが,粘膜表層しか観察できないことから診断を鋸歯状病変にとどめた(Figure 2-b).初回内視鏡からこれまで,SSLに対する取り扱いの認識が不足していたことや,内視鏡医と主治医との治療連携が取れていなかったことからそのまま経過観察となった.発見されてから4年3カ月後,通常光観察ではSSLのsizeに変化なかったが病変には黄白色の粘液や便が付着し,頂部に浅い陥凹が疑われた(Figure 3).病変陥凹部の病理組織生検では,鋸歯状上皮と共に一部不規則な構造をなす異型腺管を認めた.核は腫大しクロマチンの増加を伴い高分化管状腺癌が疑われたため(Group 4),内視鏡治療の目的で入院となった.

Figure 1 

a,b:初回内視鏡所見.c:生検病理組織学所見(HE染色100倍).

a:上行結腸に同色調で10mmの表面隆起型病変を認める.

b:NBI拡大観察では病変全体はnon-brownish areaと認識され一部にdilated cryptsを認める.

c:SSLと診断する.

Figure 2 

a:2年1カ月後の内視鏡所見.b:生検病理組織学所見(HE染色40倍).

a:初回と比べて肉眼的変化は認めない.

b:粘膜表層しか観察できないことから診断を鋸歯状病変にとどめた.

Figure 3 

通常光観察ではSSLのsizeに著変を認めない.また病変頂部全体には黄白色の粘液や便が付着し浅い陥凹を疑う.

入院時現症:身長:165.8cm,体重:60.2kg,体温:36.5℃,血圧:172/78mmHg,脈拍:78bpm.心音,呼吸音に異常なし.腹部は平坦かつ軟,下腹部正中に手術瘢痕を認めた.

入院時検査成績:血液,生化学検査に異常は認めず,腫瘍マーカーもCEA 1.9ng/ml,CA19-9 8.1U/mlと基準値範囲内であった.

胸腹部造影CT検査:病変の局在は指摘できず,リンパ節転移や遠隔転移も認めなかった.

内視鏡治療:病変基部に生理食塩水の局注を行い,十分にliftingした後,内視鏡的粘膜切除術(EMR)を行った.EMR後2日目,経過良好で退院となった.

病理組織学的所見:鋸歯状過形成粘膜を背景に,大小の歪な形態を示す腺管構造が主体の高分化管状腺癌を認めた(Figure 4-a,b).粘膜筋板の走行及び連続性が不明瞭であり,浸潤距離は病変表層から測定し2,000μmと診断した(Figure 4-a).病変右側は鋸歯状に拡張した腺管と腺管の不規則な分枝がありSSLと診断した(Figure 4-a,c).D2-40免疫染色では粘膜下層内にリンパ管侵襲を伴っていた.最終的な病理組織診断は0-Ⅱa+Ⅱc,tub1>tub2,pT1b(ly)-SM(2,000μm) Ly1,V0,BD1,pHM0,pVM0であった.遺伝子検査では,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりBRAF V600E変異とmicrosatellite instability high(MSI-high)を認めた.

Figure 4 

病理組織学所見.

a:HE染色(20倍),腫瘍部(両矢印),SSL(矢印)全体像,浸潤距離は病変表層から測定し2,000μmである(癌直接浸潤部:矢頭).

b:HE染色(aの赤枠拡大像,200倍),高分化管状腺癌の所見を認める.

c:HE染色(aの黄枠拡大像,200倍),鋸歯状に拡張した腺管と腺管の不規則な分枝がありSSLを認める.

追加治療は希望されず,内視鏡治療後,約18カ月間再発なく経過観察中である.

Ⅲ 考  察

現在,大腸ポリープは早い段階で内視鏡切除することが多いため,遡及的に経過観察する機会は少ない.自験例では,多発した腺腫性ポリープを優先的に内視鏡切除した.そのため,結果的にSSLを内視鏡的に経過観察しえたが,その自然史を推測する上で貴重な症例と考えられた.

大腸癌の発癌経路には,鋸歯状病変から癌化する鋸歯状経路(serrated neoplastic pathway)が20~30%あると考えられている 6.鋸歯状病変の中でも高率にBRAF遺伝子変異を有するSSLは,いわゆるconventional adenomaに比べて発癌はそれほど高くはない.しかし,TCSスクリーニングにおいて8~9%発見されることや右側結腸に多く認められることからinterval cancerの一因の可能性を指摘されており 7)~9,その取り扱いは重要である.SSLの臨床的特徴は鋸歯状病変の中でも過形成性ポリープ(hyperplastic polyp:HP)と形態的に類似するが,HPの癌化は稀であり,両者を鑑別し治療対象を選択することは重要である.SSLは右側結腸優位に存在し,10mm以上の同色~褪色調の無茎性隆起性病変として同定されることが多い.HPと比べて粘液の分泌が多く,病変の輪郭が不整で境界も不明瞭であり,表面が積乱雲のような(cloud-like surface)構造になることもある 10.pit pattern診断において,SSLでは腺管開口部の開大した開Ⅱ型pitを認めることを特徴とする 11.NBI観察においては両病変ともnon-brownish areaとして認識されることが多いが,SSLでは病変表層の血管網の拡張とされるdilated and branching vessels(DBVs) 12や粘膜深層の血管が拡張している所見であるvaricose microvascular vessel(VMV) 13を認め,HPとの鑑別に有用であると報告されている.自験例は,初回及び2年1カ月後の内視鏡所見ではDBVsやVMVに相当する所見を指摘できなかったが,開Ⅱ型pitに相当するdilated cryptsを認めSSLを疑った.しかし,初回及び2年1カ月後の病理組織生検には相違があった.鋸歯状病変は,腺底部を含めた全層性の観察ができてはじめて正確な病理診断が可能である.また病理医間での診断の不一致も報告されており 14,病理組織生検では確定診断に至らないことも多い.WHO2019(第5版) 3において,SSA/PからSSLに名称変更だけでなく鋸歯状病変に関する病理診断基準が改訂された.すなわち①粘膜筋板に沿った水平方向の進展,②陰窩深部(陰窩底部1/3)の拡張,③陰窩深部に及ぶ鋸歯状構造,④非対称性の増殖のいずれかの1つ所見を有し,陰窩の変形が1つでもあればSSLと診断することとなった.上記診断基準に従えば,自験例はSSLに合致する.しかし,診断基準が変われば,病変の発生頻度や癌化率は変わる可能性がある.

SSLの発癌過程においてしばしばdysplasiaを伴うとされている(SSL with dysplasia).内視鏡所見では病変内の発赤や二段隆起などを認め,pit pattern診断においてPit Ⅲ~Ⅴの特徴を有することから,内視鏡的に診断可能な症例が多い 15.そのため実臨床においてSSLの治療は,dysplasiaの合併や病変sizeにより治療適応を判断することが現実的とされている.Sizeに関しては,Saikiら 1がSSLにおける癌の併存は10mmがcut-off値と報告しており,10mm以上の病変を治療対象とする報告が多い.日本消化器内視鏡学会におけるガイドラインでも 16,10mm以上のSSLは切除対象とすることを提唱している.自験例はSSLのsizeを10mmと判断したにもかかわらず,その取り扱いの認識不足から未治療のまま経過観察したことは,反省すべき点であった.EMR後の病理結果を踏まえて考えても,早い段階でSSLの取り扱いを再確認し2年1カ月後の時点では,内視鏡治療を行う必要があった.しかし,病変のsizeに関しては内視鏡診断における計測のばらつきや術者による差も大きく,病変を10mm未満と判断すれば内視鏡治療の適応外になってしまう可能性がある.また,Amemoriら 17は28カ月間,形態変化を認めなかった7mmのSSLが13カ月後には進行癌に移行した症例を,西園ら 18は7mmのSSLが14カ月後に粘膜内癌になった症例を報告しており,10mm以下の病変でも急速に発育進展する症例も存在する.このように必ずしもsizeが治療の指標にならない症例もあり,実際は各施設に委ねられているのが現状である.

自験例では,SM浸潤及びリンパ管侵襲を認めた.Murakamiら 19は,SSLとconventional tubular adenomaからSM浸潤癌を合併した症例に関して比較検討し,SSLがconventional tubular adenomaよりsmall size(16±11mm vs. 22±14mm,p<0.001)であり,リンパ管侵襲(30% vs. 13%,p=0.028)やリンパ節転移(28% vs. 7%,p=0.01)も多かったと報告している.また,dysplasiaを伴わないSSLの状態が長く経過し,一旦dysplasiaを合併すると急速に癌化する可能性があることも示唆されている 20.よって,SSLの発育進展がconventional tubular adenomaと比べて速い可能性が示唆される.

1989年から2022年までの期間において「鋸歯状腺腫」,「鋸歯状病変」と「癌化」をkey wordとして医学中央雑誌で検索したところ192例の報告がある(会議録を除く).そのうち内視鏡的に経過観察しえたSSLの癌化症例の報告は少なく,自験例を含めて7例であった(Table 1 17),18),21)~24.患者は60歳以上で男女比が3:4であった.全例が右側結腸(盲腸3例,上行結腸4例)に認めた.初回内視鏡検査においてSSLの病変sizeは12mm(7-20mm)であった.治療まで内視鏡的経過観察しえた期間は41カ月(4-192カ月)であったが,自験例を含む7例中6例(85.7%)は浸潤がんの診断であった.

Table 1 

本邦において内視鏡的に経過観察しえたSSLの癌化症例.

自験例では患者の希望や社会的背景を考慮し,内視鏡治療後の追加治療は行わなかった.今後も厳重な経過観察が必要と考えられる.今回,発見されてから2年1カ月後の内視鏡所見ではSSLに明らかなdysplasiaの合併を指摘できなかったことから,将来の癌化を予測することは困難である.しかし,SSLが一旦dysplasiaや癌化に至ると浸潤が速い可能性があり,内視鏡治療だけでは根治できない場合もありうる.特に,多発する大腸ポリープの診断・治療は,腺腫性病変に着目されやすく,dysplasiaを伴わないSSLに対しても癌化する前段階において積極的な内視鏡治療の介入が必要であると考えられた.

Ⅳ 結  語

4年3カ月,内視鏡的に経過観察しえたSSL由来のリンパ管侵襲陽性T1b癌を経験した.SSLの発育・進展を考える上で興味深い症例と考えられた.

謝 辞

本論文を投稿するにあたり,病理標本の作製にご尽力いただいた朝倉医師会病院臨床検査・輸血科主任,藤井広美様に深謝いたします.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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