日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
症例
早期胃神経内分泌癌に対しESDを施行した1例
宮代 楓花畑 憲洋五十嵐 昌平佐竹 美和島谷 孝司金澤 浩介沼尾 宏棟方 正樹黒滝 日出一櫻庭 裕丈
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2025 年 67 巻 6 号 p. 1175-1179

詳細
要旨

症例は74歳,男性.検診精査のEGDで胃前庭部に陥凹性病変を認め,当科を紹介された.EGD所見では胃前庭部小彎に12mm大の陥凹性病変を認めた.Narrow band imaging(NBI)拡大観察で,陥凹部の腺管構造は不明瞭となっており,口径不同や途絶を呈する不整血管を認めた.生検で神経内分泌癌(neuroendocrine carcinoma:NEC)疑いの診断となった.十分なインフォームド・コンセント(informed consent:IC)のうえESDを施行した.ESD切除標本の病理組織学的所見では,粘膜内に腫瘍細胞を認め,免疫組織化学染色でNECと診断した.なお,腺癌成分は含まなかった.早期胃NECに対し内視鏡治療を施行した報告は少ない.中でも粘膜内にとどまる症例,腺癌成分を含まない症例の報告は少なく,貴重な症例と考えられた.

Abstract

A 74-year-old man was referred to our hospital for detailed examination of a depressed lesion in the stomach. EGD revealed a 12-mm depressed lesion in the lesser curvature of the antrum. Magnifying endoscopy with narrow-band imaging showed a lesion with an unclear microsurface pattern. Furthermore, the vessels were irregular, different in diameter, and disrupted. The lesion was diagnosed as a possible neuroendocrine carcinoma (NEC) based on biopsy findings. We provided informed consent and performed ESD. Histopathological evaluation of the ESD-resected specimen revealed tumor cells in the mucosa but no adenocarcinoma components. Immunohistochemistry revealed tumor cells immunopositive for synaptophysin, chromogranin, and CD56, with a Ki-67 labelling index of 94.8%; the lesion was diagnosed as NEC.

Few studies have reported endoscopic treatment of early gastric NEC, particularly intramucosal lesions or those without adenocarcinoma components. Here, we report an extremely rare case of early gastric NEC.

Ⅰ 緒  言

胃神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasm:NEN)は,WHO分類2019により,高分化型のneuroendocrine tumor(NET),低分化型のneuroendocrine carcinoma(NEC),mixed neuroendocrine-non-neuroendocrine neoplasm(MiNEN)に分類される.中でもNECは予後不良であることが知られており,早期癌で発見される症例は稀である 1.今回われわれは,早期胃NECに対して内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を施行し,拡大内視鏡所見と病理組織学的所見の対比をし得た1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:74歳,男性.

主訴:なし(検診にて異常を指摘).

既往歴:2007年E型肝炎.

生活歴:喫煙:本数不明(18〜22歳).

家族歴:姉が大腸癌.父,兄が胃癌.

現病歴:2018年2月,胃X線検診で異常を指摘され,前医で上部消化管内視鏡検査(EGD)を施行された.胃前庭部に陥凹性病変を指摘され,精査加療目的に当院へ紹介となった.

入院時現症:身長 159cm,体重 58.4kg,血圧 145/82mmHg,脈拍 58/分,体温 36.6℃.腹部は平坦,軟,圧痛なし.

血液生化学検査所見:特記すべき異常所見を認めない.CEA 3.4ng/mL,CA19-9 6.2U/mL,AFP 2.8ng/mL.

H. pylori感染診断:組織鏡検法で陽性.

胸腹部・骨盤造影CT検査所見:特記すべき所見なし.

EGD所見:通常光観察では,胃前庭部小彎前壁寄りに12mm大の陥凹性病変を認め,病変周囲は非腫瘍性粘膜に覆われ,緩やかに隆起していた.陥凹部は境界明瞭であり,白苔を伴っていた(Figure 1).背景胃粘膜には萎縮性胃炎(木村・竹本分類 O-Ⅱ)を認めた.インジゴカルミン撒布像では,中心の陥凹が明瞭となった.Narrow band imaging(NBI)拡大観察では,陥凹辺縁に不明瞭な腺管構造と,口径不同や途絶を呈する血管およびやや緑色調の血管を認め,血管が疎な部分が混在していた(Figure 2).

Figure 1 

上部消化管内視鏡像.

胃前庭部小彎前壁側に陥凹性病変を認め,病変周囲は非腫瘍性粘膜に覆われ緩やかに隆起していた(矢印).陥凹部は境界明瞭であり,白苔を伴っていた.

Figure 2 

NBI像.

陥凹辺縁に口径不同・途絶した血管(矢印)とやや緑色調の血管(矢頭)を認めた.また,血管が疎な部分が混在していた.腺管構造は不明瞭であった.

経過:陥凹辺縁より2個の生検を行い,HE染色で低分化腺癌(por1)もしくはNECを疑った.追加で免疫組織化学染色を行い,synaptophysin,chromogranin A,CD56陽性であり,NECの可能性が高いと考えられた.患者に手術も含め,十分なインフォームド・コンセント(informed consent:IC)を行ったところ,内視鏡治療の強い希望がありESDを行う方針とした.ESD施行時の内視鏡はオリンパス社製GIF-290Jを使用し,同社製のHook knifeを用いて切開および剝離を行った.切開剝離に要した時間は20分で,病変は一括切除し,偶発症なく終了した.

病理組織学的所見:切除標本は40×30mmであった.HE染色像では,類円形の濃染核を有するN/C比の大きい腫瘍細胞が胞巣状に増生しており,血管性間質が発達していた(Figure 3-a).粘膜筋板まで腫瘍細胞は達していたが,粘膜下層浸潤は認めず,脈管侵襲は認めなかった.核分裂像は33/10HPFであった.陥凹辺縁は表層が非腫瘍性粘膜で覆われており,粘膜内ではやや深い部分に拡張した血管を認めた(Figure 3-b).陥凹部はNECが露出しており,血管の増生を認めた(Figure 3-c).CD34染色にて,同様に陥凹辺縁に血管の拡張を認めた.陥凹部は血管が増生しており,内腔の拡張と狭小化を認めた(Figure 3-d).免疫組織化学染色では,synaptophysin(Figure 3-e),chromogranin A,CD56陽性であった.Ki-67染色については腫瘍細胞の核に明瞭な陽性所見がびまん性に認められ,Ki-67 labeling indexは94.8%(Figure 3-f)であり,NECと診断した.腫瘍細胞のGastrin染色およびsomatostatin染色はいずれも陰性だった.病理学的最終診断はType 0-Ⅱc,14×10mm,neuroendocrine carcinoma,pT1a(M),pUL0,Ly0,V0,pHM0,pVM0であった.

Figure 3 

病理組織学的所見(ESD切除標本).

a:粘膜内では類円形の濃染核を有するN/C比が高い腫瘍細胞が胞巣状に増生し,血管性間質が発達していた.

b:陥凹辺縁は粘膜内のやや深い部分に拡張した血管を認めた(矢印).

c:陥凹部は血管の増生を認めた(矢印).

d:CD34染色では同様の血管の所見に加え,陥凹部で血管内腔の拡張・狭小化を認めた.

e:免疫組織学的染色では腫瘍細胞はsynaptophysin陽性であった.

f:Ki-67labeling indexは94.8%であった.

治療後経過:非常に増殖能が高い腫瘍であり,十分なICのうえ追加外科切除の方針となった.腹腔鏡下幽門側胃切除術(D2郭清,Roux-en-Y再建)を施行し,手術標本に腫瘍残存は認めず,周囲リンパ節への転移も認めなかった.追加外科切除後,5年間が経過したが,再発を認めず生存中である.

Ⅲ 考  察

NECの存在様式としては,NECが単独で存在するもの,NECとNETが共存するもの,通常型腺癌が共存するものなどが挙げられ,腺癌と共存するものが最も多いとされている 2.医学中央雑誌(期間指定なし,Key words「胃神経内分泌癌」「胃NEC」,会議録を除く),Pub Med(期間指定なし,Key words「ESD」「neuroendocrine carcinoma」「gastric mixed adenoneuroendocrine carcinoma」)を用いて検索し症例集積した結果,胃NECに対し内視鏡治療が行われた症例は自験例を含め4例 3)~5のみであった(Table 1).本症例はNECが単独で存在しており,極めて稀な症例である.

Table 1 

内視鏡治療が施行された胃NECの症例報告.

胃NECの内視鏡所見は,通常光観察における粘膜下腫瘍様の辺縁の隆起,洗浄で容易に落ちない白苔の固着,境界明瞭な潰瘍,NBI拡大観察における腺管構造の消失かつ途絶した不整な血管構造,蛇行に乏しくネットワークを形成しないまばらな不整血管が特徴的であるという報告がある 6),7

それぞれの所見について考察を加える.粘膜下腫瘍様の辺縁の隆起については小型ながらも粘膜内深層での腫瘍の増生を反映したものと考えられた.白苔については,未分化型癌において癌細胞増殖が粘膜表層まで達しびらんを生じやすく,腺頸部の消失により表面上皮が新生されにくくなるとされており 8,本症例においても高悪性度であるため同様の機序で上皮の新生が困難となりびらんを形成し,白苔の固着を呈したと考えられた.また,粘膜下腫瘍様の辺縁の隆起により,非腫瘍性粘膜とびらんを呈する陥凹部との境界が明瞭となったと推察した.NBI拡大観察における腺管構造の消失は,癌細胞が腺構造を形成せずに充実性の増殖をしたためと考えられた.血管構造については,腫瘍により圧排されながら小胞巣充実性に増生した腫瘍の間を走行する血管を観察しているため,口径不同や途絶を呈したと考えられた.本症例ではネットワークは比較的保たれていたが,さらに腫瘍の増生が進み,血管の圧排が増すとネットワークを形成しないまばらな不整血管として観察される可能性があると考えられた.

また,同様にNBI拡大観察では血管が疎な部分が混在して観察された.充実性の増殖を認める部分で疎となり,胞巣状の増殖を反映して混在していたと考えられた.やや緑色調の拡張蛇行した血管については,増殖能の高い腫瘍により既存の血管が圧排され,うっ血することで拡張蛇行した血管構造を呈し,NECが粘膜深層部で増殖することから,粘膜表層ではなく,やや深い部分で血管の圧排が生じ,緑色調に観察されたと考えられた.

NECの術前生検での診断率は低いとされており,粘膜下進展優位の発育様式を呈するため周堤隆起部は正常粘膜で覆われていることが多く,腺癌成分が表層側に位置することが多いためとされている 9.本症例においては生検検体のHE染色にて強い異型性と多数の核分裂像を認めたため,免疫組織化学染色を行い,NEC疑いの診断に至った.しかしながら,既報では表層に腺癌成分を伴っていないNECであっても術前に診断できた例はなく,腺癌の診断で施行したESD後に出現した肝腫瘍の切除後にNECの診断となった症例もある 6.NECが単独で存在するのは極めて稀であること,HE染色のみでは低分化腺癌との鑑別が困難であることも術前生検での診断率が低い要因と考えられた.内視鏡所見から胃NECを疑う所見を認めた場合には,生検検体について積極的に免疫組織化学染色を追加することで診断に結び付く可能性がある.

NECでは早期癌であっても,内視鏡治療後早期に再発する症例もあり 4),10,確実な診断が重要であり,治療方針の決定は慎重に行うべきである.

Ⅳ 結  語

早期胃NECに対しESDを施行した症例を経験した.内視鏡所見では早期より境界明瞭な陥凹や白苔の固着を認める可能性がある.NBI拡大観察では,不明瞭な腺管構造と口径不同や途絶を呈する不整血管を認めた.胃NECの生検による診断率は低いが,病理医と連携し,確実な診断の下で治療方針を決定する必要がある.

本論文の要旨は,第162回日本消化器内視鏡学会東北支部例会にて発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2025 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top