抄録
上部消化管内視鏡検査によって心停止などの循環器系隅発症が発生している.そこで胃内視鏡検査が循環器におよぼす影響について内視鏡検査直前,検査中,検査後に血圧,心電図,ベクトル心電図を測定および記録し比較検討した.対象には,60歳以上の老年者を選んだ. 血圧(収縮期血圧)は,20例中17例(85%)に内視鏡検査中に上昇がみられた.心拍数は,全例とも検査前に比較して増加した.不整脈は,35例中2例(5%)に認められた.心筋の虚血性変化は,心電図およびベクトル心電図を記録した54例中22例(40%)の高率に認められた.これらの結果は,いずれも隅発症に発展する危険性をふくんでいる. 心筋虚血,心停止などの循環器系隅発症をおこす因子として内視鏡検査時の心拍数の増加,血圧の上昇および内臓反射などが考えられる. 老年者の上部消化管内視鏡検査にあたって循環器系隅発症を予防するためには,少なくとも検査前に血圧および心電図を必ずチェックし,患者の基礎疾患を十分に把握しておく必要がある.