抄録
多発胃癌は今日でも診断学,発生病理学上問題となるところも多い.今回は術前診断上特に問題となる幽門部進行癌の口側に早期癌を有する多発胃癌8例を対象をして主として口側病変の診断上の問題点について検討した.その結果,全例高齢男性症例であり,幽門狭窄状態の進行癌が大半を占め,口側の早期癌は大部分1cm前後以下のIIcであった.さらに切除胃粘膜の胃底腺よりみた萎縮についてみると,口側病巣が萎縮帯領域に含まれるもの4例,中間帯領域に入るもの4例であり,口側病巣が胃底腺領域に含まれるものは1例も存在せず,大部分が高度萎縮例であり,また高度腸上皮化生を伴っていた.これらのことより多発胃癌の術前診断にあたっては充分な観察とともに背景胃粘膜の性状を認識することが肝要と思われた.