抄録
症例は54歳の男性.1980年12月,心窩部痛を主訴とし某医受診.胃X線検査にて胃体上部小彎の圧排を指摘された.膵疾患が疑われ,ERCPの目的で当科へ紹介された.ERP像で膵体部主膵管の長い範囲の不整狭窄,同部膵野分枝の欠損,尾部分枝の軽度拡張がみられた.ERC像では,三管合流部直下において総胆管の限局性狭窄,上部胆管の軽度拡張が認められた.これらの所見より,膵体部癌と診断された.その後入院精査中,上門歯列より35cmの部に隆起型病変がみられ,内視鏡生検にて扁平上皮癌と診断された.開腹の結果,食道下部は厚く肥厚し,腹腔リンパ節,膵体尾部が一塊となった固いボール様の腫瘤を形成しており,切除不能と判断,閉腹された. 本症例は,食道原発癌と考えられるが,膵腫瘍の所見が表に立って,原発巣と思われる食道癌が後になって診断された興味ある症例であった.