抄録
家族性大腸腺腫症(Familial adenomatosis coli: FAC)は胃に高頻度に異型上皮巣を合併することが知られている.その異型上皮巣の発生母地である背景胃粘膜について,われわれの経験した11例のFAC,本症以外の異型上皮巣症例(異型上皮巣症例)およびそれぞれの年齢に対応した正常者(対照)との間で比較検討した.背景胃粘膜の検索として,胃液検査(Basal acid output: BAO, Maximum acid output: MAO),血清ガストリン値測定,胃粘膜の組織学的検索を行った.FACではBAO 2.595±1.845mEq/hr, MAO 13.309±3.857mEq/hr,血清ガストリン値92.7±17.3pg/mlといずれも対照との間に差を認めなかった.組織学的検索ではFACの胃粘膜の萎縮性変化は対照に比し軽度か同程度であった.腸上皮化生の程度も対照との間に差を認めなかった.一方異型上皮巣症例ではBAO 0 .412±0.118mEq/hr, MAO 1.561±1.075mEq/hrと対照に比し有意に低下し,血清ガストリン値も対照より高値であった.異型上皮巣症例の胃粘膜の萎縮性変化および腸上皮化生の程度は対照に比し有意に高度であった.以上よりFACにおける胃の異型上皮巣の発生母地は,一般の異型上皮巣の発生母地と異なることが示唆された.