抄録
患者は78歳男性で発熱,食欲不振を主訴に入院.腋窩リンパ節生検にて悪性リンパ腫,胃透視及び胃内視鏡検査にて多発早期胃癌と診断された.前者に対してVEMP療法を施行.後者に対しては内視鏡的Nd-YAGレーザー照射治療を試みた.胃角部小彎のIII+IIC型早期胃癌にはおもに非接触型照射法,胃体下部後壁のIIc型早期胃癌には照射野が接線方向となるため,接触型照射法を併用した.レーザー照射後,両病巣ともに生検癌陰性であったが,胃角部小彎の病巣は5カ月後,生検癌陽性となり追加照射を施行した.悪性リンパ腫はVEMP療法にて経過良好であったが,再燃にて3回目の入院中肺炎を併発して死亡した.剖検にて胃角部小彎にUl-IVの潰瘍瘢痕,胃体下部後壁にUl-IIの潰瘍瘢痕を認めた.組織学的検索では癌細胞は認められず,リンパ節転移も認められなかった.本症例のごとき手術非適応例の胃癌に対する内視鏡的レーザー照射は効果的であり,非接触法で照射困難な胃体下部後壁への接触型照射法は有効であった.