抄録
著者は内視鏡下に主として十二指腸球部に発赤またはびらんが散在するものを発赤びらん型十二指腸球部炎と呼んでいる.今回,その96例の臨床所見および球部粘膜の生検組織を電子顕微鏡を用いて検討した.この型の球部炎は胃液分泌亢進を示し,びらん性胃炎を高率に併うことなどは十二指腸潰瘍群に類似していたが,症状が軽く,肝障害の合併が多い点が異なっていた.21例の経過観察例のうち十二指腸潰瘍へ進行したものは1例のみであり,球部炎は潰瘍の前駆病変としての意義は少ないものと思われた.電子顕微鏡による観察では,胃型上皮および胃型上皮と吸収上皮の中間的な特徴を持つ細胞がみられ,高酸による粘膜障害に対する防禦機転によるものと思われた.