日本消化器内視鏡学会雑誌
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急性上部消化管出血に対するトロンビン末の少量頻回経口投与法の基礎的ならびに臨床的効果の検討
松田 徹外田 博貴板坂 哲上野 恒太郎石川 誠知念 功雄板坂 勝良芦沢 圭子今 周二門馬 孝大泉 晴史
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1986 年 28 巻 3 号 p. 516-522

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抄録

 トロンビンの胃内凝固能に対する胃酸濃度の影響と最大凝集能を来たすトロンビンの至適濃度およびセクレチンまたはシメチジンの胃内pHにおよぼす影響について検討した.さらに実際に急性上部消化管出血に対し,あらかじめセクレチンまたはシメチジンを投与し,次いでトロンビンの少量頻回経口投与した止血効果について検討を行った.トロンビンの凝血能は,pH1.0ではほとんど不活化されたが,pHが上昇するにつれて増大し,pH6.0以上で最大となった.このトロンビンの失活は,常温で45分間放置した後pHを上げると復活したが,45分間37℃ で保温した場合には,その後pHを上げても完全な復活はみられなかった.トロンビン生食水溶液の濃度の違いによる凝血能の比較では,5,000u/20~40mlで最高の凝血能を示した。一方,セクレチン150uまたはシメチジン200mgを静注すると,胃内pHは45分から50分後に7.0以上に上昇し,それぞれ約45分と90分間持続した.以上のことから,急性上部消化管出血に対しては,セクレチンあるいはシメチジンを投与して胃内pHを高く維持させながらトロンビンを5,000u/20~40mlの濃度で3時間ごとに頻回に経口投与するのが効果的と考えられた.このトロンビン治療法を急性上部消化管出血30例に対して行なった結果,内視鏡的局注止血法を併用した19例中18例,94.7%に,また内視鏡的局注止血法を併用しないでよいと思われた出血11例中9例,81.8%に有効な止血成績が得られ,臨床上有用なものと考えられた.

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© 社団法人日本消化器内視鏡学会
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