1986 年 28 巻 3 号 p. 569-575
何らかの消化器系愁訴を有して来院した65歳以上の高齢者(平均71.0歳)62例および人工透析中の慢性腎不全(CRF)患者17例(平均48.1歳)の計79例を対象とし,胃内視鏡検査時の前処置剤としてのグルカゴン(G)の効果と副作用を臭化ブチルスコポラミン(B)を対照薬とし,それぞれ無作為に2群に分け,対比した.高齢者におけるG群の胃の蠕動運動および胃液量に対する効果はB群とほぼ同程度であり,持続時間はB群に匹敵する効果が得られた.一方CRF患者では両群共に胃の蠕動運動・胃液量に対する効果は高齢者に比較してやや低かった.副作用は,高齢者ではG群で口渇・脈拍数増加がB群に比較して有意に少なく,CRF患者においても一過性の腹痛を認めた1例を除き,副作用は一切みられなかった. 以上より,高齢者およびCRF患者の内視鏡検査時の前処置剤としてのG応用の意義は十分あるものと考えられた.