1986 年 28 巻 3 号 p. 648-656_1
直腸平滑筋肉腫は,近年報告例が増加しているとはいえ,比較的稀な疾患である.今回われわれは,直腸平滑筋腫の診断のもとに,経肛門的腫瘤摘出術を施行したが,術後摘出標本の病理組織学的検索の結果,悪性像を認め,平滑筋肉腫として,根治的再手術を行った症例を経験したので報告する.症例は65歳の女性.1年前からの排便困難を主訴として昭和59年3月精査目的のため当科に入院した.直腸指診で肛門輪より4cm口側に腫瘤を触知.大腸のX線および内視鏡検査,CT,超音波検査(以下,US),血管造影などの所見から,筋原性腫瘍が疑われた.術前の質的診断のために,経肛門的に針生検を行い,組織学的に平滑筋腫と診断し,経肛門的腫瘤滴出術を施行した.術後摘出標本の病理組織学的検索の結果,悪性像を認めたため,根治的再手術を行った.直腸平滑筋肉腫は,本邦では,われわれが調べ得た限りでは80例の報告がある.今回の自験例を含め,本邦報告81例につき,統計的および文献的考察を加え報告する.