1986 年 28 巻 8 号 p. 1876-1882_1
Shönlein-Henoch purpuraは小児に多くみられ成人発症は比較的稀で,特に消化管病変については不明の点が多い.今回われわれは紫斑で発症し全身の関節痛・血尿を認め2週間後に著明な吐下血・嘔吐・腹痛をきたし,上部消化管内視鏡で胃に点状出血・びらんを,十二指腸に潰瘍を認めた52歳男性例を経験し,本邦上部消化管内視鏡施行成人例の統計学的検討ならびに本症の消化器病変の成因について考察を行なった.自験例に対しH2受容体拮抗剤と副腎皮質ステロイド剤を投与後,自覚症状および内視鏡所見に著明な改善がみられた.胃生検組織の酵素抗体法で血管壁にIgA陽性物質の沈着が,電顕で肥満細胞の脱顆粒現象がみられた.IgAと抗原とのimmune complexが形成され,肥満細胞の脱顆粒現象が血管透過性亢進を促し,本症の消化管病変を生じさせたと考えられた.H2受容体拮抗剤ならびにステロイドの血管透過性亢進抑制作用はそれらの機構に対し抑制的に働き,奏効したと考えられた.