抄録
多発性硬化症に合併した虚血性大腸炎の1例を報告した.症例は34歳女性.16歳で多発性硬化症が発症し,緩解,増悪をくり返した.昭和61年1月対麻痺,尿閉,便秘が出現し,2月当科に入院した.入院時,知能正常,両側失明,中部胸随での横断性脊髄障害による完全弛緩性麻痺と感覚脱失がみられた.入院中2日間の便秘後,肛門から鮮血の排出があった.当日の内視鏡検査でS状結腸に分節状に著明な浮腫,管腔の狭小,発赤,出血が,非炎症部にmelanosis coliの所見がみられた.生検組織では,非特異性の炎症および腺管の壊死,脱落など,ghostlike appearanceの所見がみられた.出血は漸次減少して,4日後に消失した.39日後の内視鏡検査では前回みられた所見は消失していた.以上の臨床経過,内視鏡,生検所見から,S状結腸の病変は虚血性大腸炎と診断した.多発性硬化症でみられた虚血性大腸炎の発症機序に考察を加えた.