抄録
症例は75歳,女性で7年前より糖尿病の加療を受けていたが,空腹時血糖の上昇,体重減少,軽度の腹部症状が出現した.理学的所見では心窩部に可動性の少ない鵞卵大の腫瘤を触知した.血液生化学検査でALP,LAP,γ-GTPが著明に上昇していた.一方,CEA値は軽度上昇していた.ERCPで主乳頭からは短い腹側膵管像が,副乳頭からは背側膵管像がえられ,両膵管系には交通を有しなかった.X線上,腹側膵管系には異常を認めなかったが,背側膵管は開口部から約5cmの部位で中断像を示し,その近位側で腺房像の欠損を示した.これらERCP所見は剖検膵管造影所見とよく一致していた.病理組織学的所見では腫瘍組織は低分化型管状腺癌で,膵被膜を超え広範に浸潤していた.一方,癌浸潤は腹側膵には認められず膵腫瘍は背側膵管系より発生したものと推定された.自験例のごとく,膵管malfusionに膵癌が合併する危険性もあり,従って,本症では積極的に副乳頭からの造影に努めるべきである.