抄録
胃内逆流胆汁と胃の腸上皮化生の関係を明らかにするため,胆汁の逆流の高度な例でみとめられた前幽門洞の発赤部や残胃吻合部の発赤部において,メチレンブルー直接法を用いて,色素吸収能の有無を確かめるとともに,その領域の生検による粘液組織学的検討を行った。と同時に,メチレンブルー直接法に基づいた幽門洞の腸上皮化生の拡がりと逆流胆汁との関係について検討した. 逆流胆汁については,早朝胃内貯留液を用いて,胆汁酸の分離・定量を,高速液体クロマトグラフィーにより行った. その結果,胆汁の逆流の高度な例でみとめられた前幽門洞の発赤部や残胃吻合部の発赤部には,メチレンブルー色素の吸収はみとめられず,その組織は,goblet cell metaplasia近似のものであった.そして,メチレンブルー法に基づいた幽門洞の腸上皮化生域が拡大するにしたがい,コール酸やデオキシコール酸といった1次胆汁酸のタウリンおよびグリシン抱合型が,胃液中に高濃度に認められることが判明した. 一方,各種の胃疾患別の検討では,1次胆汁酸濃度が,胃びらんで低く,胃潰瘍で高い傾向があり,両者の間で有意差を認めることから,びらんよりも胃潰瘍において,胃液中胆汁酸との関係が深いことが示唆された.