抄録
症例は35歳女性で,下腹部痛,血便を主訴に来院し,1983年1月29日入院した.入院時,左下腹部に鶏卵大の腫瘍を触知し,腹部単純写真にて上行結腸から下行結腸へかけて多量のガス像を認め,下行結腸下部の閉塞機転が示唆された.大腸内視鏡検査では肛門輪より20cmの部位に管腔全体を占める巨大な腫瘤をみとめた.その頂部は凹凸不整,結節状の所見がみられ,大腸癌が疑われたが,その基部は発赤した平滑な粘膜で覆われ,粘膜下腫瘍も否定し得なかった.大腸X線検査では下行結腸下部に蟹挾み状陰影,coiled spring signを認め,大腸癌による腸重積症と診断し手術を施行した.腸管は3筒性の重積状態にあり,腫瘤は無茎性,大きさ60×35×20mmで深達度mの早期癌であった.大腸内視鏡検査でみられた腫瘤基部の平滑な粘膜の所見は腸管の重積状態を反映したものと思われた.本例は重積状態となった腫瘤を内視鏡的に観察し得た点で興味深い症例と思われ,報告した.