抄録
患者は76歳男性で,心窩部痛を主訴とし,1987年3月16日当科を紹介され,入院した.US,CT,血管造影で体尾部を中心とした膵癌と考えられたが,ERCPで主乳頭から造影したところ,不整のない樹枝状の短小膵管と正常の胆道像のみが得られた.膵管非癒合を疑い副乳頭から造影すると,開口部より約4cmで不整断裂を示した.いずれの乳頭からの造影でも両膵管系の交通は認められず,本症例は膵管非癒合に合併した背側膵癌と診断された.剖検では8×6×4cmの全体癌で,組織学的には中分化型管状腺癌であり,慢性膵炎の有無は判定できなかった.本邦における膵管非癒合に合併した膵癌の報告は,本症例が17例目にあたり,そのうち1例を除く全てが背側膵に発生していた.膵管非癒合に癌の合併が多いか否かについては背側膵炎の問題とともに明かではなく,今後の症例の積み重ねが必要であると思われた.いずれにしても,膵管非癒合が疑われた際には膵炎のみならず癌の存在も考慮し,副乳頭からの背側膵管造影を積極的に行うべきであると考えられた.