日本消化器内視鏡学会雑誌
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内視鏡的食道静脈瘤硬化療法後に残存胃静脈瘤出血をきたした1例
井手 一敏冨松 久信古賀 俊彦
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1989 年 31 巻 6 号 p. 1538-1542_1

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抄録

内視鏡的硬化療法により食道静脈瘤が完全消失した後に,残存する胃静脈瘤の破裂をきたした症例を経験したので報告した.患者は肝硬変を有する73歳の女性で,1987年7月31日に吐血をきたした.内視鏡検査で食道にred color sign高度の静脈瘤を認め.胃噴門部にも1ヵ所に限局した発赤を有する静脈瘤を認めた.5%ethanolamine oleateの血管内注入による内視鏡的硬化療法にて食道の静脈瘤は完全消失したが,胃噴門部の静脈瘤は残存した.1987年12月14日に残存する胃噴門部静脈瘤の破裂による2回目の吐血をきたした.出血部位は初回吐血時より1カ所に限局してみられた発赤部位と一致しており,発赤所見は破裂の危険性を示す重要な所見と思われた.直接穿刺による5%ethanolamine oleateの血管内注入で,破裂した胃噴門部静脈瘤は止血され,さらに追加硬化療法によりほぼ完全に消失した.その後再吐血はみられないが,最近の内視鏡所見では噴門部静脈瘤の再発をみている.残存胃静脈瘤破裂を防ぐには,まず胃静脈瘤を残存させないことが大切である.また,血行動態面および組織学的構造面において胃静脈瘤は食道静脈瘤と大いに異なっており,残存胃静脈瘤も含めて胃静脈瘤に対する内視鏡的硬化療法は,その長期効果および硬化剤の種類や注入量について今後の十分な検討が必要である.

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© 社団法人日本消化器内視鏡学会
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