1989 年 31 巻 6 号 p. 1569-1574_1
症例は56歳の女性,心窩部痛を主訴に入院.入院時,血清および尿アミラーゼの高値を認め,臨床的に急性膵炎と診断した.臨床所見および検査成績が速やかに改善し,入院後1週目にERCPを施行した.Vater乳頭は発赤し,その近傍に,腫大したひだの集中所見と不整なびらん性変化が認められた.膵管像では細いWirsung管と同時にその走行部に帯状の異常腺房像が造影され,これに引き続き主膵管が造影された.さらに17日後のERCPでは,十二指腸病変,異常腺房像は消失し,細いWirsung管と下部で狭窄した胆管像が造影された.最終的に悪性病変も否定できず手術が施行された.病理組織学的には,Vater乳頭近傍から膵内に伸展した十二指腸憩室の炎症が,膵実質および十二指腸粘膜に波及したものと診断された.ERCPで認められた異常腺房像はこの炎症巣に一致すると推察され,さらに,本例ではWirsung管の形成不全が基礎に存在していたものと考えられた.