1989 年 31 巻 8 号 p. 2106-2112
高齢者における上部消化管出血の原因とその背景因子を検討した.上部消化管内視鏡を行った60歳以上の患者409例中,吐下血症例55例から,悪性腫瘍,食道静脈瘤が出血原因であった例を除いた43例を出血性病変群とし,上部消化管病変を有するが,吐下血を認めなかった症例から年齢,性,入院期間,基礎疾患をmatchさせた40例をコントロール群とした.高齢者における上部消化管出血の原因としては出血性胃炎がもっとも多く,胃潰瘍がこれに次いだ.両群間で背景因子を比較すると,出血群ではコントロール群に比して,「寝たきり」,DIC,抗生物質摂取の頻度が有意に高かった.また,経口摂取率,血清総蛋白,アルブミン,総コレステロールおよびコリンエステラーゼ値は出血群においてコントロール群に比し有意に低かった.以上より,低栄養および感染が高齢者における上部消化管出血のrisk factorであり,全身状態の管理が上部消化管出血の予防に重要であると考えられた.