抄録
症例は75歳,男性.約4週間持続する下血を主訴として来院.外来時の直腸指診で柔らかい腫瘤を触知した。大腸内視鏡検査では肛門輪より8cmの部位に管腔全体を占める表面平滑で巨大な腫瘤を認め粘膜下腫瘍を思わせた.しかし,その基部には凹凸不整な隆起性病変がみられ生検の結果腺癌の組織所見が得られた.入院後,注腸X線検査を施行したところ,表面平滑で巨大な腫瘤は認められず.大腸内視鏡検査でみられた平滑な粘膜の所見は腸管の重積状態を反映したものと考えられた。手術の結果,深達度pmのS状結腸癌であった.本邦において術前に内視鏡的に観察し得た成人腸重積症症例は著者らが調べ得た限り本症例を含め13例である.成人の腸重積症は腫瘍性疾患に起因するものが多く,また慢性に経過する場合が多いことを特徴としており,したがってこの間に積極的な内視鏡検査を行い,病変の質的診断をなす必要がある.