抄録
十二指腸壁内血腫の1例を経験した.症例は14歳,男.サッカーで右上腹部を地面に強打し,約5時間後に上腹部痛と嘔吐が出現した.腹部超音波検査で腹部腫瘤を認め,上部消化管造影検査で十二指腸第2部から第3部にかけての腫瘤を思わせる陰影欠損と,Coil Spring状の粘膜壁所見から十二指腸壁内血腫と診断し,中心静脈栄養法を中心とした保存的療法を開始した.入院中の内視鏡検査では,発症数日目までは,粘膜下腫瘍を思わせる隆起と粘膜面の発赤が見られたが,臨床症状の改善とともに発赤の消失,隆起の消退が観察された.保存的療法により第16病日には経口摂取可能となり,第37病日に軽快退院した.本疾患は最近は保存療法で十分に対処できる疾患であるとの報告が増えており,早期診断と適切な治療方針の決定が重要である.また内視鏡検査は,本症の診断および経過観察上有用である.