日本消化器内視鏡学会雑誌
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リピオドール溶解抗癌剤の肝動脈動注療法に伴う上部消化管病変の検討(第1報)
―Lp-TAI前後の内視鏡像の比較について―
平沼 孝之島倉 秀也忠願寺 義通山口 高史松崎 靖司樫村 博正中原 朗田中 直見福富 久之大菅 俊明
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1990 年 32 巻 7 号 p. 1615-1626_1

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抄録

肝細胞癌125例について,213回のリピオドール・MMC肝動脈動注療法(Lipiodol Transcatheter arterial infusion method:以下Lp-TAIと略)を施行したが,これらのうち治療前後に,内視鏡検査を施行し得た68例(125回)を対象として,内視鏡像の比較検討を行った.Lp-TAI後に新たに発生した胃十二指腸潰瘍は延べ15例で,その出現率は12.0%であった.びらん性胃炎や出血性胃炎は,延べ33例に認められ,その出現率は26.4%であった.全体でみると,Lp-TAI125回のうち48回に,何らかの胃十二指腸病変が発生し,その出現率は38.4%であった.Lp-TAI後に出現した潰瘍の形態的特徴は,不規則な辺縁を示す白苔と,その周囲に発赤と浮腫が強いことであった.また潰瘍は浅いものが多く,その多くは3カ月以内に瘢痕化し,難治性の潰瘍は経験しなかった.びらん性胃炎は,強い発赤に加えて出血を伴うことが多く,時に薄い白苔を伴う小びらんが散在して認められた.びらん性胃炎33例のうち24例,72.7%は限局性であった.術前の,患者の背景因子(肝機能障害の程度,門脈圧亢進症の程度)により,病変発生率を検討した. その結果,Lp-TAI後の胃十二指腸病変の発生率は,肝硬変の重症度とは相関せず,Lp-TAIの施行回数と相関していた. Lp-TAI後に発生する潰瘍の形態的特徴や病変発生率の統計的分析から,Lp-TAI後の潰瘍の発生には,リピオドール・MMC懸濁液の胃動脈への逆流が,重要な役割を果たしていると考えられた.従って,この合併症の予防には,できるだけ肝動脈の末梢まで選択的にカテーテルを挿入することが重要である.

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