1996 年 38 巻 10 号 p. 2379-2385
死亡まで観察できた肝細胞癌181例の,癌の門脈本幹浸潤 (Vp3) と食道静脈瘤内視鏡所見との関係を検討した.初回入院時Vp3は27例で,F1RC(+)は4例(14.8%),F2RC (+) 以上は13例 (48.1%) であった.初回Vp3 (-) では,F1RC (+) は8例 (5.2%) , F2RC (+) 以上は26例 (16.9%) であり,前者の食道静脈瘤が高度であった.初回Vp (-) ・死亡時Vp3 (+) は64例で,このうち初回F1RC (-) だった29例では,Vp3になってからRCが陽性化した例は15例 (51.7%) と多く,Vp3以前に陽性化した例は4例 (13.8%) と少なかった.初回静脈瘤のなかった16症例では,Vp3後に10例 (62.5%) に静脈瘤出現をみた.Vp3前に予防的硬化療法をおこなった13例ではVp3後の静脈瘤の破裂は3例 (23.1%) ,Vp3後に初めて予防的硬化療法を施行した7例ではその後の出血は5例 (71.4%) と高率だった.無治療例の出血率は81.3%であった.以上,肝癌における早期からの予防的治療の有用性が示唆された.