抄録
通常の内視鏡検査における十二指腸潰瘍の赤色瘢痕と白色瘢痕の診断の実態を明らかにする目的で,臨牀例を対象として,これらの瘢痕部と周辺正常部の色を内視鏡的に測定した.対象は十二指腸潰瘍瘢痕を有する患者29例(赤色瘢痕12例,白色瘢痕17例)とした.十二指腸潰瘍瘢痕にたいする通常の内視鏡診断ならびに粘膜面の色の測定には,上部消化管用ファイバースコープ:MT-III・町田製作所とそれに接続可能な分光光度計:CMZ-1200・村上色彩研究所を使用した.色の表示方法はマンセル表色系(色相,明度,彩度)によった.その結果,通常の内視鏡検査における十二指腸潰瘍の赤色瘢痕と白色瘢痕の鑑別の実態は以下のようにまとめることができた.1.赤色瘢痕と白色瘢痕の鑑別は,瘢痕部のみの色の判定に拠っているのではない.2.赤色瘢痕の内視鏡診断は「瘢痕部の色が周辺部の色より赤い」と判定することに拠っており,この判定は色彩工学的にみても極めて正確な判定である.3.白色瘢痕の内視鏡診断は,「瘢痕部の色が周辺部の色と同じである」と判定することに拠っている.しかしながら,色彩工学的に分析すると,赤色瘢痕であると診断したグループとは異なり,瘢痕部と周辺正常部の色の関係にはかなりのバリエーションがある.即ち,白色瘢痕のグループには,瘢痕部が周辺正常部よりもまだ赤い症例,瘢痕部と周辺正常部がほとんど同じ色の症例,瘢痕部が周辺正常部より白い症例が混在しているものと考えられる.以上の結果より,通常の内視鏡検査においては,白色瘢痕部と周辺正常部の色の相違の有無を,さらに詳細に観察していく価値があると考えられた.