本稿では,経営者によるモラルハザードの問題,すなわち,経営者は過剰な投資を好み,いかなる状況においても企業の存続を望み,資産の部分売却を通じて企業のリストラを好まないという問題を日本のメインバンク・システムが解決することができるのか否かが論じられる.なお,メインバンク・システムを考える際には,メインバンク自身によるモラルハザードの問題も考える必要がある.すなわち,メインバンクは過剰に資産を売却したり,企業の解散に関して最適な決定を行わない可能性がある.本稿においては,長期と短期の負債比率,及び,資産売却を行った際の,銀行の間での売却益の分配方法があらかじめ適切に定めておかれるならば,日本のメインバンク・システムはこれらのエージェンシー問題を解決することができることを示す.