2024 年 20 巻 p. 21-33
はじめに
多くの伝統宗教と同じく、キリスト教は強固な家父長制と異性愛主義を深く内包し、それらを維持・強化してきた宗教である。ローマ・カトリック教会をはじめとする「伝統的」キリスト教会では何世紀にもわたって男女二元論、男女相補論1 、男性優位主義、生殖中心主義といった性規範が保持されてきた。これらに基づき中絶・避妊といったリプロダクティブ・ライツや同性愛者の権利を侵害し攻撃してきたキリスト教はそれゆえ、フェミニズムやクィア・アクティビズム/理論にとっては往々にして対峙すべき「敵」ともなってきたのである。
しかしそうしたキリスト教の内部にあって、家父長制や異性愛主義を支える教義や聖書解釈に異議を唱え、むしろ女性差別や性的マイノリティ差別に抵抗する力となりうる教義や聖書解釈を探る動きが出てきた。それらがフェミニスト神学やゲイ神学、レズビアン神学、クィア神学等と呼ばれる思想潮流である。本稿ではこれらの内部に分け入ることで、それらが真に抵抗実践となりうるのか、そこにどのような課題と可能性があるのかを考察する。