ジェンダー史学
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論文
朝鮮における婚姻の「慣習」と植民地支配
─1908年から1923年までを中心に─
野木 香里
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2011 年 7 巻 p. 25-41

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抄録

本稿では、1908年以降、朝鮮における「妻の能力」と「離婚」の「慣習」がどのように記録され、認識されたのか、そしてそれが1921年と1923年の朝鮮民事令第11条の改正にどのように影響したのか、検討した。
法典調査局が1908年から朝鮮各地で行った実地調査は、日本人事務官補が「上流社会」に属する朝鮮人男性の認識を記録したものであったが、「妻の能力」と「離婚」に関する記録からは、地域や階層によって多様な「慣習」が垣間見られた。
こうした記録は『慣習調査報告書』が編纂される過程で日本人事務官によって取捨選択され、夫の権力は頗る強大であり、妻は夫に対して絶対に服従する存在であるというイメージがステレオタイプ化された。このイメージは、「妻の能力」を日本の民法に依るとする朝鮮民事令第11条の改正において、日本の民法の規定が「女子の人格の向上を認め」るものだということを示すための根拠として利用された。
また、朝鮮総督府は「保護政治」以降に「婦人ノ地位ノ向上」が見られ、妻が提起する離婚が「増加」し、「内地の法制と同様」になったと捉えた。その実は各地で多様に存在していた「慣習」が表面化したものであったが、日本の民法に読み替えられたのである。他方、朝鮮総督府は増加する妻からの離婚訴訟を「乱訴」と捉え、それを抑制するために「裁判上の離婚」を日本の民法に依るとした。

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© 2011 本論文著者
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