2009 年 135 巻 p. 151-165
本稿は,アカン語アサンテ方言の名詞孤立形および所有名詞句の声調に関して筆者の調査データを提示し,分析を試みる。まず名詞孤立形の声調に関しては,①接辞が独自の声調を持つこと,②語根の声調は音節数に関わらず5つのタイプに分類されること,③声調の配分は音節単位になされていることを示す。次に所有名詞句については,Dolphyne(1986, 1988)に倣って名詞を2つのクラスに分類するが,Class IとClass IIの根本的な違いが,所有名詞句において名詞の接頭辞の声調が現れるかどうかによってもたらされることを主張する。また,Class Iの所有名詞句には通時的な声調変化が関与していることが知られているが(Stewart 1983, Dolphyne 1986),この声調変化は,Stewartの言うような声調が変わる位置の移動ではなく,Dolphyneの言うように,浮きH声調の語根頭への移動である。しかも,この浮きH声調は語彙レベルでClass I名詞が有するものではなく,もともと所有接語が持っていたものである。