本論文では,従来構造的分析が有力とされてきた英語の経験者目的語心理動詞に対し,新たに意味の面から光をあてることにより,その諸特性を導き出す。まず,Brekke(1976)の観察に基づき,この動詞クラスがその認知意味的性質上主観的動詞群を形成することを確認する。次に,この観察を捉えるため,経験者解釈が語彙的または合成的に認められる文の派生には従来仮定されている時制句(TP)より上の位置に視点投射が含まれており,表層経験者はその指定部に論理形式部門で非顕在的移動を受けると提案する。この分析によれば,逆行束縛効果,弱交差効果の消失,作用域の多義性などの一見特異な経験者目的語心理動詞の構造的特性が統一的に導き出される。本分析が正しければ,二つの理論的帰結が得られる。第一に,これまで生成統語論の枠組みで支配的であった,意味役割のみに基づく構造的心理述語分析には限界がある。第二に,心理動詞の特異性はすべてこの動詞群特有の主観性述語としての認知意味的性質及びその統語的反映に還元される。