言語研究
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論文
沖縄語の鼻音二型
宮良 信詳
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2009 年 136 巻 p. 177-199

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抄録

本稿では,沖縄語や日本語の音韻現象を扱うにあたって,阻害性鼻音‘obstruent nasals’と鳴音性鼻音‘sonorant nasals’とを区別する必要性を論じている。前者の基底形は[+鼻音,-継続性]で,後者は[+鼻音]のみで表示され,音韻的にまず区別される。同一系統関係にある両言語においては,h音が別の子音と重なる際には*hhではなく,ppかmpのみが許容されるとか,有声子音の前では同一調音点をもつ鼻音しか許容されないという,子音結合上の制約がある。この種の制約による調整を経て,阻害性鼻音は[+鼻音,-継続性,+有声]と再表示され音韻規則の適用を受けるが,鳴音性鼻の有声性という普遍性から導かれるという立場が展開されている。沖縄語においては,阻害性鼻音は後続子音の有声化の引き金となったり,それ自体が消去されたり,有声阻害音結合から阻害性鼻音を派生する規則の適用を受けるが,鳴音性鼻音は有声化,消去,有声阻害音結合からの派生のいずれとも関わらない。日本語でも,大和系形態素の末尾(例,動詞語根yom)や,その他の大和系形態素の中腹(例,tombo)で阻害性鼻音が生起し,有声化の引き金となったり(例,/yom+ta/からyon+da「読んだ」),有声阻害音結合から規則的に派生されたりする(例,/yob+ta/からyob+daを経てyon+da「呼んだ」)。一方,漢語系形態素の末尾(例,han+tai「反対」)では鳴音性鼻音が生起し,原則として後続子音の有声化には関わらない。この鼻音二型の区別がなされてはじめて,沖縄語や日本語の音韻特性の説明において有意義な一般化が果たされると論じている。

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© 2009 日本言語学会, 著者
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