2009 年 136 巻 p. 35-73
日本語の文プロソディーの研究では最近Kawahara and Shinya(2008)が日本語の並列節のプロソディーを,Deguchi and Kitagawa(2002),Ishihara(2002),Hirotani(2003)がwh疑問文のプロソディーをそれぞれ分析し,統語的な節(clause)が一部の音韻・音声現象の適用範囲と一致することを示唆するデータを示した。本稿はこれらの研究成果を概説し,日本語が示す統語構造とプロソディー構造の対応関係が統語論と音韻論のインターフェースに関する普遍的な理論から導かれることを示す。本稿ではまた,統語構造と音韻構造の一般的な対応関係を構築する新しいインターフェース理論(Match理論)の概要を紹介し,この理論がChomsky(2001)が提唱するSpelll-Out理論の一部門となりうることを示す。さらに,この理論が再帰的(recursive)なイントネーション構造が一定の条件下で起こることを予測し,Itô and Mester(2007)が提唱する新しい韻律構造分析とも相容れることを論じる。