言語研究
Online ISSN : 2185-6710
Print ISSN : 0024-3914
特集 言語構造のインターフェイス
局所性と線状化:キナンデ語の分析
ノーヴィン リチャーズ
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2009 年 136 巻 p. 75-92

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抄録

Holmberg and Hróarsdóttir(2003)は,アイスランド語の主語上昇は経験者(experiencer)の存在により阻止されるが,経験者要素がwh移動により文頭に移動するなら阻止されないという興味深い事実を指摘した。この事実は,wh移動が主語上昇よりも先に適用されることを示しており,循環(cycle)範疇を最大投射とするこれまでの考え方では説明がつかないものであるが,Hiraiwa(2005)とChomsky(2005)はcycleをphase(位相)とする新しい考え方を提示し,主語上昇もwh-移動も同一phase内の操作となるので局所性違反は免れるとした。本稿ではアイスランド語と形式的に同様の事実を示すキナンデ語(コンゴ民主共和国で話されているバンツー諸語の一つ)を考察し,キナンデ語の事実は局所性(locality)により分析されるのではなく,同一Spell-out境界内では同じ標識を持つ節点が構造上近接することを禁じる「示差性(distinctness)」という制約(つまり,統語構造から発音への制約)(Richards 2001, to appear)によって捉えられることを論じる。この分析がアイスランド語の分析にも適用できるならば,循環のあり方は簡潔化できることになる。

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© 2009 日本言語学会, 著者
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