言語研究
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Print ISSN : 0024-3914
論文
イ落ち:形と意味のインターフェイスの観点から
今野 弘章
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2012 年 141 巻 p. 5-31

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抄録

本稿は,「ださっ。」や「気持ち悪っ。」のような,形容詞の終止形活用語尾「い」が脱落し,形容詞語幹が声門の閉鎖を伴って発話された口語表現(「イ落ち構文」)を記述し,当該表現における形と意味の相関関係を明らかにすることを目的とする。統語的には,イ落ち構文は,C,T,Negの機能範疇を欠き,小節(small clause)が主節を形成する“root small clause”(Progovac 2006)の一種とみなすことができる。意味的には,イ落ち構文は,発話時における話者の感覚や判断を,「伝達」ではなく,「表出」する「私的表現行為」(Hirose 1995,廣瀬1997)専用の構文である。本稿では,このイ落ち構文の統語的特徴と意味的特徴を照らし合わせ,当該構文において,動機付け・類像性・有標性の相互に関連する観点から,形と意味が恣意的ではなく有機的に結びついていることを論じる。

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© 2012 日本言語学会, 著者
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