言語研究
Online ISSN : 2185-6710
Print ISSN : 0024-3914
141 巻
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論文
  • 今野 弘章
    2012 年141 巻 p. 5-31
    発行日: 2012年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    本稿は,「ださっ。」や「気持ち悪っ。」のような,形容詞の終止形活用語尾「い」が脱落し,形容詞語幹が声門の閉鎖を伴って発話された口語表現(「イ落ち構文」)を記述し,当該表現における形と意味の相関関係を明らかにすることを目的とする。統語的には,イ落ち構文は,C,T,Negの機能範疇を欠き,小節(small clause)が主節を形成する“root small clause”(Progovac 2006)の一種とみなすことができる。意味的には,イ落ち構文は,発話時における話者の感覚や判断を,「伝達」ではなく,「表出」する「私的表現行為」(Hirose 1995,廣瀬1997)専用の構文である。本稿では,このイ落ち構文の統語的特徴と意味的特徴を照らし合わせ,当該構文において,動機付け・類像性・有標性の相互に関連する観点から,形と意味が恣意的ではなく有機的に結びついていることを論じる。

フォーラム
  • 窪田 悠介
    2012 年141 巻 p. 33-47
    発行日: 2012年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    本論文では,Hayashishita(2007)の「以上(に)」「ぐらい」を用いた比較構文の分析の妥当性を検討する。Hayashishita(2007)は,「AはB以上に/ぐらいPだ」という文には通常の比較構文にはない「AとBがともに属性Pに関して平均基準を越えている」という含意があることを根拠に,これらの構文をcomparison of deviation,つまり,要素A,Bに関して,平均基準をどれだけ越えているかを比較する構文として分析している。本論文では,要素Aと要素Bに関して「平均基準を越えている」という含意のステータスに関して違いがあることを示す新しいデータを提示し,Hayashishita(2007)の分析がこれらのデータに関して誤った予測をなすことを示す。さらに,本論文では,当該の構文の分析としては,比較基準であるBに関してのみ「平均基準を越えている」という前提を持つ(真理条件的には)通常の比較構文である,と分析する代案のほうが観察される事実をよりよく捉えられることを示す。

  • 大谷 直輝
    2012 年141 巻 p. 47-58
    発行日: 2012年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    文のミニマルペアである,(i)John walked over the bridge.と(ii)John walked under the bridge.では,(i)が「ジョンが橋の上側を歩いて渡った」事態を,(ii)が典型的には「ジョンが橋の下の地面の上を歩いた」事態を表すと解釈される。(i)と(ii)には,(a)TRとLMの接触性,(b)LMの役割,(c)言語化されない地面の役割,(d)前置詞句の意味特性,(e)前置詞句の文法特性,という5つの非対称的な振る舞いが見られる。

     本研究では,(i)と(ii)を考察することで,反意語であるoverunderを含む文のミニマルペアから非対称的な振る舞いが生じる動機付けを身体性と百科事典的意味の観点から分析する。一般的に,overunderは反意語とされ垂直軸上で対称的な位置関係や動きを表すと考えられるが,人間が実際に経験する認識世界の垂直軸には様々な非対称的な特性が見られる。本研究では,この上下に関する異なる身体経験や百科事典的意味が,言語の意味と同時に文法的な振る舞いも動機づける点を明らかにする。

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