言語研究
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Print ISSN : 0024-3914
特集:日本の危機言語・危機方言
アイヌ語の現状と復興
佐藤 知己
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2012 年 142 巻 p. 29-44

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抄録

アイヌ語話者の正確な人数を知ることは極めて困難である。政府がアイヌ民族の存在を法的に認知していないので公式統計がないこと,調査自体が民族差別を引き起こす可能性があることによる。アイヌ語の現状について言えば,「アイヌ語教室」がアイヌ語の伝承に一定の役割を果たしてきたが,話者の協力が得られる教室は残念なことに少なくなりつつある。1997年に成立した「アイヌ文化振興法」も様々な言語復興事業を支援しているが,アイヌ民族の法的地位には言及を避けているという問題がある。実地調査は困難となったがアイヌ語の研究は復興活動にとって今後も益々重要である。例えば,抱合は語形成において重要な役割を果たすが,アイヌ語の抱合のパターンはいくつかの規則の相互作用によって無標なもの(目的語抱合)と有標なもの(主語抱合)とに分類できる。この事実を反映させることにより,構造的により妥当な新語を選択することが可能となる。

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© 2012 日本言語学会, 著者
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