本稿では,ジンポー語(北ビルマ:シナ・チベット語族)における,音素目録のギャップ,接頭辞の形態音素交替,レキシコンにおける類似回避など,複数の音韻現象を無気音化という観点から統一的に説明することを試みる。音素目録のギャップに基づき,同言語の無声摩擦音が,有気閉鎖音同様,音韻的に[+spread glottis]の指定を持つと考えることで,有気閉鎖音と無気摩擦音が関与する複数の接辞交替を[spread glottis] tierにおけるOCP効果の観点から説明する。同時に,本稿ではジンポー語のレキシコンにおける[spread glottis]の分布の偏りを指摘し,同現象が[spread glottis] tierにおける複数の[+spread glottis]に対する制約として説明可能であることを指摘する。