数量的アプローチによる認知言語学的な類型論的分析の試みとして,日本語の状態変化表現に関する研究を行う。BCCWJを用いた12の状態変化表現に関する調査結果を,移動事象表現の類型論と共通の枠組み(松本2017a; Talmy 2000も参照)によって分析する。その結果から,日本語では文の主要部が状態変化(あるいはその一部)を表すことが圧倒的に多く,特に状態変化を構成する「移行」と「結果状態」の両方を,一緒に主要部のみで表す場合が多いことを明らかにする。その点で,日本語は「変化主要部表示型言語」であり,移動事象表現が主として経路主要部表示型であるのと似ているが,状態変化表現の方が主要部の役割が大きいことを指摘する。また,主要部を用いるかどうかには,状態変化の種類によって大きな違いが見出されることを示し,日本語における語彙のレパートリー,さらに結果状態の性質などの観点からその説明を試みる。さらに,状態変化と「共イベント」の共起頻度が低いという観察に基づき,タルミーの類型論の限界を論じる。