抄録
神経細胞には外的・内的異常要因による侵襲から自らを防御する機能、即ち神経細胞に特異的なアポトーシス抑制機構が存在していると考えられ、神経変性疾患原因遺伝子の研究を通して神経変性症の病態解明と予防医療・治療法開発の糸口が得られることが期待される。このような観点に立って研究を進めた結果、私達は脊髄前角のα運動ニューロンの選択的変性脱落を主病変とする脊髄性筋萎縮症(SMA)の原因候補遺伝子の一つとしてNeuronal Apotosis Inhibitory Protein(NAIP)の単離に成功し、本遺伝子産物が細胞死(アポトーシス)を抑制することを見出した。NAIPはBcl-2 familyに属さない新規のアポトーシス抑制因子であり、SMAにみられる運動神経の選択的な変性における神経細胞の特異的なアポトーシスの抑制機構において重要視される。このように、本遺伝子は脳神経細胞ならびに広範囲の細胞死に対して抑制活性を示すことから、SMAの分子機構解明とその防御法開発に寄与する重要な遺伝子であると考えられる。