抄録
2001年津田らは、北太平洋において初めての鉄散布実験を西部北太平洋亜寒帯域(48.5°N, 165°E)で行った(SEEDS2001; Tsuda et al., Science, 300, 958-961, 2003)。私達はこの実験において海水中の溶存態,酸可溶態および粒子態微量金属を観測した。実験海域では鉄散布前の溶存鉄濃度は0.1 μM以下であったが、反応性粒子態鉄濃度は約5 nMであった。この粒子態鉄はおそらく大気から塵として供給されたものであるが、植物プランクトンにとって利用しにくい化学形であったと考えられる。また、私達は溶存Co, Ni, Cu, Zn, Cd濃度の減少を見いだした。外洋において植物プランクトンの増殖時にこれらの濃度が変化することが見いだされたのは、これが最初である。金属元素の減少量比は植物プランクトンの組成比とほぼ一致していることから、これらの金属は植物プランクトンに取り込まれたと推定される。