抄録
海水中のストロンチウム同位体比の測定を行う研究は、数億年スケールでの海洋環境変動を引き出す上で重要である。リン酸カルシウムの結晶であるサメの歯のエナメル質は続成作用の影響を受けにくく、過去のオリジナルなストロンチウム同位体比復元に適していると考えられるが、従来の研究ではサメの歯のバルク分析、または比較的大きなサメの歯のエナメル質を削って行う分析のみであった。本研究の目的はサメの歯のエナメル質を局所分析することにより、より正しい値のストロンチウム同位体比の復元を行うことである。このために現世のサメについてバルクの分析値とNanoSIMSによる分析値を比較し、分析法の確立を行い、いくつかの化石について局所分析を行った。この結果、現世のサメの歯は現在の海水の値を示し、中新世の化石以外は炭酸塩のデータによるストロンチウム同位体比進化曲線と誤差範囲内で一致した。