ラセミックな DL-イソバリン固相薄膜に,自由電子レーザーからの純粋円偏光を照射したところ、照射前には観測されなかった円二色性が観測された。Cotton 極大の符号は照射円偏光のヘリシティ符号(左 or 右まわり)により完全に逆転し,対称的な二色性スペクトルが得られた。照射後の吸収スペクトルはわずかに低エネルギー側にシフトするものの極大形状は照射前とほぼ変化がなかったことから,分子の単純な不斉分解ではなく,分子配座変化を伴う構造変化によるキラル発現であると推測される。この結果は,無生物的に生成されたラセミックな有機物が,低温の星間物質表面に吸着した状態であっても,宇宙空間に存在する円偏光への曝露により,そのヘリシティに対応した対称性方向のキラリティを発現しうることを示す。