抄録
昆虫などによって植物体に形成されるゴールの化石の化学的同定を行なうために,化石ゴールから特有のバイオマーカーや化合物の組成分布を探索した。また,化石における指標の保存を検討するため,現生のゴールも分析して比較した。試料は,中期更新統,大阪層群で産出した枝ゴール化石(被子植物のイスノキにアブラムシが形成した)と,化石とほぼ同一種の現生植物の葉,葉ゴール,枝ゴール試料である。化石ゴールの遊離態成分ではn-アルカン,バクテリア由来のホパン,被子植物バイオマーカーのオレアネンなどが検出された。化石ゴールの加水分解成分は,おもに植物の表皮に由来するクチン酸であった。化石と現生の枝ゴールのみに,2種類のクマール酸が見出された。クマール酸は,枝ゴールを同定する候補化合物となることを提示できる。また,化石ゴールの熱分解成分からは,没食子酸に類似するポリフェノール化合物を見出した。