抄録
韓半島の南東部には浅海~非海成の下部白亜系である慶尚超層群が日本海に面し広く分布している。西南日本においても類似の下部白亜系が認められ,主に,九州北東部と本州西端部の関門層群と飛騨山地の手取層群としてまとまった分布が知られている。これらのうち特に慶尚超層群と関門層群は現在の位置関係や堆積相,全岩の微量元素組成の類似性をもとに古くから対比され,古地磁気学による日本海拡大前の古地理復元においても両者の堆積場が近接していたことは整合的と考えられてきた。しかし近年,慶尚超層群中に含まれる放散虫チャート礫が美濃帯由来であるという考えや,手取層群に含まれるオーソクオーツァイト礫を韓国沃川帯起源であるという考えから,慶尚超層群と手取層群の堆積場が近接していたという見解も示されている。この考えはロシア沿海州の先白亜紀テレーンと東北日本の南部北上帯を対比する古地理復元モデルと整合的な関係を示す。そこで本研究では関門層群と慶尚超層群の堆積岩中の砕屑性ジルコン・モナザイト年代用い,両者の後背地を比較し,堆積場の近接性を考察した。 本研究では山口県下関地域に分布するジュラ紀後期~白亜紀初期の豊西層群,および白亜紀前期関門層群と韓国慶尚南道晋州市分布する慶尚超層群の砂岩から砕屑性ジルコン・モナザイトを分離し,EPMAを用い1粒子ごとのU-Th-total Pb年代を測定し,その年代頻度分布を比較した。 慶尚超層群や関門層群のような浅海~非海成層の砕屑物は,近接する基盤山地の地質と流入する河川経路に大きく依存すると考えられる。分析・統計処理の結果,慶尚超層群の砕屑性ジルコン・モナザイトの年代には2400Ma,1870Ma,1100Ma,730-900Ma,440Ma,360Ma,240Ma,190Maのピークが認められ,図に示すように関門層群の砕屑性ジルコンの年代分布に類似する。このことから,両者は後背地を共有する同一または近接した堆積盆をなしていたと考えられる。またこれらの年代分布でピークを示す年代は,大部分が慶尚超層群の基盤である嶺南地塊で報告されている年代だが,後期原生代の年代は嶺南地塊では報告がほとんどなく,北方の沃川帯や京畿地塊からの砕屑物の寄与を示す。これは豊西層群で礫として報告されているオーソクオーツァイトが嶺南地塊には存在せず,沃川帯や京畿地塊にみられることと一致する。一方,同時代の手取層群の砕屑性ジルコンには後期原生代の年代は報告されておらず(荒川,2005),慶尚・関門層群と手取層群とは異なる堆積盆に属していたと考えられる。