日本地球化学会年会要旨集
2009年度日本地球化学会第56回年会講演要旨集
セッションID: 3E01 04-01
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海洋における微量元素・同位体の分布と循環
南半球亜熱帯における核実験起源炭素14とセシウム137の分布
*熊本 雄一郎青山 道夫村田 昌彦渡邉 修一深澤 理郎
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抄録

核実験起源炭素14とセシウム137は、ともに海洋循環の研究にとって重要なトレーサである。1970年代に実施されたGEOSECSによってはじめて明らかにされたそれらの全球規模の分布は、海洋循環に関する多くの知見をもたらした。しかしながら、主に分析上の制約から、その後の海洋におけるセシウム137のデータ蓄積量は、炭素14のそれに比べて圧倒的に少ない。我々は、2003/04年に南半球亜熱帯海域においてBEAGLE2003(「みらい」MR03-K04)航海を実施し、南太平洋南緯約32度、南大西洋南緯約30度、インド洋南緯約20度における核実験起源炭素14とセシウム137の分布をはじめて同時に明らかにした。「みらい」船上で採取された海水試料中の炭素14(DELTA14C)及びセシウム137は、それぞれ加速器質量分析法、極低バックグランド放射線計測装置を用いて陸上の施設で測定された。下図に、各観測点における核実験起源炭素14とセシウム137の鉛直積算量を示す。海盆ごとに平均した核実験起源炭素14の鉛直積算量は、インド洋で最も小さくなっていた。これまでの観測で得られた結果から、大気海洋気体交換によって海洋表面水に移行した核実験起源炭素14は、高緯度で形成されたモード水/中層水によって中緯度中層に運ばれ緯度30~40度を中心に蓄積されていること、そして低緯度ほどその蓄積量が減少していくことがわかっている。インド洋における相対的に小さい積算量は、インド洋の観測が南緯約20度で実施されたのに対して、南太平洋と南大西洋の観測が南緯約30度で行われたことによると推察される。一方、同時に測定された核実験起源セシウム137は、核実験起源炭素14とは逆にインド洋でその鉛直積算量が最も大きくなっていた。核実験で生成したセシウム137はフォールアウトにより海洋に供給されたが、そのフォールアウトによる供給だけでは今回観測されたインド洋の大きな積算量は説明できない。この原因としては、インド洋に比べてセシウム137濃度の高い北太平洋表層水のインド洋への移流(すなわちインドネシア通過流)によって、北太平洋からインド洋へのセシウム137が運ばれてきたことが考えられる。すなわち、核実験起源炭素14とセシウム137の分布の違いは、それらトレーサの大気から海洋への移行過程、海洋内部での循環過程の違いによるものと考察された。

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© 2009 日本地球化学会
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